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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
9/226

寝込みを襲ったりしませんから 4

     4


「今日一日学校に通って、どうでした?」

「うーん、久々に女子高生になれましたし、かわいい後輩さんを拝めて眼福でした」

「そういうことを聞いているんじゃなくて」

「かわいいのは未広さんだってそう思うでしょう。思わなかったらがっかりです」

「否定はしませんが肯定もしません」

「あら思春期」

「うるさいです」

 この吸血鬼は血は吸わないけれど、いたいけな男子高校生をからかうことを趣味にしているようだった。

吸血鬼との同居生活と女子高生デビュー、無事に1日目が済み、帰宅して夕ご飯を食べている。今日の夕食当番は僕だ。献立はカレーとサラダ。カレーには自信があります、と出してみたところ、牧穂さんに大層褒められた。隠し味は味噌です。

「それで、吸血鬼らしき人は見つかりましたか」

「パッと見、それらしき人はいませんでした」

カレーを食べ終えて一息ついたところで牧穂さんに聞いてみると、初日は収穫なしとのこと。むしろ僕の方が美味しい朝食に与れたり新聞部の部員を獲得できたりで役得になっている気がした。

「まあ、誰が吸血鬼っていうのは私にはわからないんですけど」

 あっけらかんと白旗を上げる牧穂さんに思わず被せるように僕は言った。

「わからないものなんですか、同族って」

「残念ながらそういうフェロモンはありません。わかるとしたら、眼の色ですかね」

「あの赤と青になるやつですか」

「ご名答です」

 牧穂さんが行き倒れていた時に「見た赤と青に明滅する目」は吸血鬼の大きな特徴らしい。

「でもあれも狩りをするときくらいしか現れません。だから実質、私は平時で誰が吸血鬼なのかわかりません」

 逆に言えばあの時の牧穂さんは本当にやばかったということの裏返しだった。トマトジュース……じゃなくて血を飲ませておいてよかったのかもしれない。

「もしかしたら、言わないだけで美菜さんが吸血鬼かもしれませんし」

「まさか」

「でも、誰だかわからないということはそういうことです。だからこそ私はなるべく未広さんのそばで見護る必要があるんです」

 新聞部で牧穂さんが言ったことを思い出した。

『もしかしたらいるかもしれないんですよ、私たちの周りにも。普通に』

吸血鬼ですら見抜けないものを、僕たちが見抜けるはずがない。けれど、こっちには一応本物の吸血鬼がいるだけでアドバンテージなのかもしれない。

「でも、美菜ちゃんが吸血鬼だったら僕は」

「受け入れられませんか?」

「いや、そうじゃないです。嫌でもないです。受け入れます。でも、多分意識はしちゃうかなと思います」

「未広さんは優しいですね」

「何が?」

「吸血鬼を否定してくれません」

「牧穂さんのおかげです」

「恋い焦がれましたか?」

「実際に美少女吸血鬼が目の前に本当にいるってだけです」

恋と言うほどではないけれど、やっぱり同じ屋根の下で暮らすってなると、少し意識はしてしまう。ほら、たわわな部分とか、際どい部分とか。自分より年上のお姉さんのものだし。学校にいた時は言わなかったけど、ていうか死んでも言えなかったんだけど。

「お姉さんに比べてどうですか? 色気ありますか?」

「……はい」

なぜ即答してしまうんですか僕は、と項垂れながら、何の話をしていたかを思い出せなくなってカレーをもう一口食べた。


カレーを食べ終えて、牧穂さんがほうじ茶を淹れてくれた。温まりながら、やがて僕たちは今後一緒にいるにあたって確認をした。。

 あくまでもいち転校生。でも帰る方向は一緒。僕は転校生の案内役。遠い親戚なので未広さん、と呼ぶ。吸血鬼のことは積極的には明かさない。確認事項は枚挙にいとまがないけれど、必須事項を改めて確認しあった。

「牧穂さんが吸血鬼だってことは」

「そういうことは積極的に言うものでもありません」

吸血鬼、いわば牧穂さんの正体については、バレると直ちにヤバいというわけではなかったので、とりあえずこっちからは打ち明けず、バレたらバレたで何とかするという結論に至った。

「いざとなったら記憶操作術でなんとかしてしまいますけど」

 今さらりと末恐ろしいことを言ったぞこの人。冗談です、と否定もしてくれないし。

「あまり使いたくないものですので、未広さんが私を襲ったりしなければ大丈夫ですよ」

笑顔が怖い。

「にしても、それ以外の特徴ってないんですか」

「それ以外の特徴ですか。うーん」

 シンキングタイムをください、と牧穂さんは考え込むしぐさをした後、まるで頭の上に電球が浮かぶように思いついたような顔をした。

「あ、とっておきのがありました」

 そして、僕ら人間にとってはとんでもないことを昨日から言い続けている牧穂さんだけれども、またもや、そして本当にとんでもないことを口にした。


「——基本的に一度死んでいるんですよ、私たちは」


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