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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
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意志が強い人が飲んだほうがいい 2

     2


「最大限尽くしたけれど、今はこれが限界」

 完成した紫色の勾玉を前に、城見先生は腕を組んで唸っていた。

 開かずの扉の向こうで見つけたメモには、吸血鬼もどきを人間に戻す方法が書かれていた。それをもとに勾玉の開発に成功したはいいんだけれど。

「どっちが飲む?」

 目の前のテーブルに置いてある勾玉は一つだけだった。たくさんの勾玉の抜け殻を使っても、城見さんたちの力を尽くしても、一つしか造れなかった。

「エミール、飲んで」

 僕は迷わずに口にした。

「ミヒロ、それは」

「僕は大丈夫だよ」

 困惑しているエミールに僕は笑ってみせる。別にこれが最後ではないし、寿命が迫っている方が先に飲むのが道理だ。それに。

「意志が強い人が飲んだほうがいい」

 人間として生きることと吸血鬼として生きること。その狭間で揺れている人よりかは、人間として生きる希望を強く持っている人が飲んだほうがいいと思ったから。

 エミールは渋っていたけれど、僕は譲らず、やがて意を決したように首を縦に振った。

「この波形が横線のままになれば、純粋な人間である証拠。今2人の波形は、らせん状に絡まっています」

 心電図みたいなディスプレイを指さしながら、城見さんはエミールの腕にパッドのようなものを貼っていく。そして、これからの流れを説明していく。これからエミールは勾玉を飲んで、吸血鬼もどきから人間に戻ろうとしている。勾玉を飲む、という表現は正しいのかどうかわからないけれど、グラスに勾玉を注いで水を注ぐとその成分が出てくるというのが城見さんの話だ。

「あ、水も紫になった」

「それがミソなんだよ。敢えてわかりやすいように色付けしておいたんだ」

「オイシクナサソウ」

 エミールはいかにも怪しい紫の液体を見て苦い顔をしたが、飲んでみるとどうやら味はそんなにまずくないらしい。あっという間に飲み干してしまった。

「グレープジュースみたいな味はしなかったけど、薬みたいな味もしなかった」

「しっかり味見をして作ったからな」

「その、どうせだったら美味しい方がいいと思って」

 栄恵と榛ちゃん先生はまるで料理を作ったかのような感想を言っている。その配慮はありがたいけれど、どうせだったら色味をもう少し和らげて欲しかったかも。

「その色にしようって決めたのは詩音だ」

 その詩音さんは徹夜が続いたからか休憩室でバタンキューらしい。

「これで波形が変われば……」

 呟いた城見さんは、ディスプレイを祈るように見つめる。理科の教科書で見た事のあるような螺旋が一本線になって、思わず目を見開いた。

「あ、一本線になった」

「よっしゃ!」

 城見さんがこぶしを握って喜んだあと、榛ちゃん先生と栄恵とハイタッチを交わした。ディスプレイの線が横一本線になった。つまりそれは成功の証。エミールは人間に戻ったのだ。

 念のため、例のメガネでエミールを見てみたんだけれど、彼女の瞳は紫ではなく、瑠璃色のそれをしていた。

「おめでとうエミール」

「ミヒロ」

「大丈夫だって。城見さんが僕の分も作ってくれるから」

 人間に戻ったというのに、心配げな顔を僕に向けるエミールに笑いかけてから、城見さんに頷いて見せる。城見さんはサムズアップして言った。

「もう少し待って欲しい。冬までに、ぼくが必ずつくるから」


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