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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
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微糖の砂糖抜きでお願いします 4

     4


「牧穂さんは実験台にされていたのかもしれないです」

 僕の推論に、城見先生は否定とも肯定もとれない表情でコーヒーを一口飲んだ。そして角砂糖をもう一つ追加する。

「十分甘くないですか?」

「ぼくは相当の甘党だからね」

「ブラックが飲めないだけなのにね~」

「詩音さん」

「はーい」

 からかうだけからかって助手は給湯室へと消えていった。

「うん、まだ甘さが足りないんじゃないか」

 甘党の生徒会長は黙ってて。収拾がつかなくなる。

「未広くんの見解を聴きましょう」

「微糖の砂糖抜きでお願いします」

「ブラックって言えばいいのに~」

「詩音さーん」

「ごめんなさーい」

 茶々を入れるだけ入れてまた給湯室へと消えていった。

「改めて、未広くんはどう考えますか?」

「牧穂さんが高校生だった時、高津先生は彼女を使って実験をしていた。その跡があの勾玉の山です」

「研究」

「吸血鬼の研究。たぶん『吸血鬼を人間に戻す』っていう」

「牧穂さんは吸血鬼にされて、人間に戻して、また吸血鬼にされた」

「何度繰り返したのかはあの空の勾玉の数を見ても検討がつきません。けれど、あれがその勾玉だとしたら合点は行きます」

おそらく大学時代の一件よりも前に、牧穂さんは一度吸血鬼もどきにされていた。そして勾玉で元に戻して、また血を吸われた。高校時代の記憶は操作したんだろう。それくらいは造作もないはずだ。

「ということは、牧穂さんを遭難した山で吸血鬼にしたのは」

「早代さんです。記憶操作に長けているはずだから『山で吸血鬼になった』っていうことにしたのかもしれないけど」

 もしかしたら高校生の時点で、僕たちのようにもどきになって、吸血鬼になることが決まっていたとすれば。

「うん、悲しきかな、ぼくが経てた推論と一致しているよ」

 城見さんは本当に悲しげにつぶやいた。

「使い捨てた勾玉の中にエネルギーを持ったものがないだろうか」

「実際に見てみないとわからないけど、たぶんそんなことはしないと思う」

 城見さんは、栄恵の見立てに『可能性はあまり高くない』という言い方だった。

「それに10年ぐらい前のことですし、たとえ残っていたとしても消えてしまっているかもしれません」

「でも愛斗ならそこから何かを見つけてくれると信じている」

 甘いもので手なづけられてすっかり名前で呼ぶようになった栄恵は、城見さんをまっすぐに見つめる。

「確かにそういう代物があったということを目にしただけでも収穫です。ありがとう、未広くん、栄恵さん、エミールさん」

「草葉の陰からエミールも喜んでるぞ」

「勝手に吸血鬼にしない」

 エミールは、今日は美菜ちゃんと一緒にお出かけ中である。毎日誰かしらに引っ張りだこで人気者である。

「取り急ぎ勾玉の抜け殻を解析して、それをもとに勾玉のレプリカをつくります」

 城見さんは僕と栄恵を見据えて、そう宣言した。

「エミールさんはもう時間がありません。未広くんもあっという間に期限が来てしまう。とにかく少しでもいいから抜け殻から何かを見つけて……」


「何をしているかと思いきや、こういうことでしたか」


 城見さんの言葉を遮ったどこか控えめな声にドキッとして振り向いた。詩音さんかと思ったけど、違う女性が立っていた。僕と栄恵はその姿を見て固まっていたけれど、城見さんは一番目を見開いていて、彼女の名前を恐る恐る呼んだ。

「ひ、日向さん」

「城見くん、こんな学校の裏山で何してるんですか」

 いたずらっこの尻尾を掴まえたとばかりに呟いたのは、榛ちゃん先生だった。

 それはこっちの台詞だ。なんでここに。

「それに春日井くん、今の話は本当なんですか」

 今の話、ってどっから聞かれてたんだ。

「春日井くん、水口さん、聞かせてください。わたし、怒らないので」

 いつになく真剣なまなざしを無下にすることもできず、かといって誤魔化し切れる気もしなかったので、僕は魚のように口をパクパクさせている城見先生に変わって事情を説明することにした。

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