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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
86/226

微糖の砂糖抜きでお願いします 3

     3


「ああ、令奈ちゃんのお母さんだよ。うちの生物の先生やってたの」

 高津先生の名前を聴いて思案する千佳子先生の表情が、程なく妙を得たそれになった。

「あれ、高津先生、高校の先生やってたんですね」

「え、今大学教授やってるんだ」

 お互いに過去の経歴と現在の経歴を知らなかったらしくぽかんとしていた。

「私も教わったことあるよ。って言っても、なんかあいまいなんだけどね」

 千佳子先生は苦笑いする。

「何で教えてくれなかったんですか」

「えー、言ったじゃん未広ちゃんには。忘れちゃった?」

「覚えてない」

 もしかしたらここでも記憶操作を使ってたのかもしれない。

「とにかく優しい先生ですよね」

「うん、怒ったところ見たことない」

 教師陣からの評価もすごく高かった。その後も語られる話では、まるで非の打ちどころのないような先生だったらしい。

『えー、東金先生と日向先生、至急職員室までお戻りください』

 自分たちを呼ぶ声がスピーカーから聴こえてきて、教師陣は首を傾げた。

「あれ、呼び出しですね。東金先生何やらかしたんでしょうすか」

「なんでしょう。って榛ちゃんもだからね!」

 わいのわいの言いながら、2人は部室を出ていった。

「サカエにはあとでカキゴオリだね」

 これで作戦が成功したので、給湯室に隠れていたエミールが飛び出してきた。

「スケソウダラだ、ミヒロ」

 助太刀と言いたいらしいエミールだった。ちなみにさっきの放送の主は栄恵である。

 先生たちに早代さんのことを聴きつつ、この部屋にある開かずの扉に潜入するための作戦だった。

 新聞部部室は社会科準備室の跡地でもある。その奥に、開かずの扉があった。千佳子先生も赴任してきたから開けたこともないらしく。というか、鍵がなくって開けられなかったらしい。

 そこに何かヒントがないかな、と研究室でふと呟いた僕に『生徒会室に鍵がある』と告げたが栄恵だった。せっかく生徒会長も味方につけたことだし、少し骨を折ってもらったのだ。

 周りに誰もいないことを確認しつつ、僕は鍵を開けた。

 ほこりっぽい。正直な最初の感想はそうだった。中に入って見まわしてみると、日本地図や地球儀、古い文献などが無造作に置いてあった。おそらく授業で使ってたんだろう。

「随分と散らかってるね」

「シッチャカメッチャカ」

 そんな言葉はちゃっかり覚えてるんだ、と思いつつ足を進めると、ひとつの木箱に足が当たった。半分開いていたそれのふたを開けてみると、

「勾玉、あった」

それも複数。

「なんだ、この数」

思わず口に出てしまうほど、数が多かった。まるで透き通ったガラスのように透明な勾玉が山積みになっていた。

「ミヒロ、これはオオバンコバンがザックバランというやつか」

 日本語はともかく、エミールの言う通りだった。宝の山。

全てを持ち帰るのはキツかったので、スマホで写真を収めておいて状況証拠を押さえることにした。

 そして鍵を閉めると同時に、千佳子先生が部室に帰ってきた。僕は鍵をポケットにねじ込んで、動揺を悟られないように尋ねた。

「おかえりなさい、何の用事だったんですか?」

「うーん、それがおかしいんだよね。誰も呼んだ先生はいないって。まあ何もなかったからいいんだけどね」

 不思議そうな千佳子先生に、僕はあることを尋ねた。

「千佳子先生、牧穂さん……菜穂子さんは高校時代も同級生だったんでしたっけ」

「うん、高校からの同級生だよ」

「2人はうちの高校に通ってたんですよね」

「そうそう」

「2人とも、高津先生の授業は受けてるってことですよね」

「うん、菜穂子は特に気に入られてたよ」

 一つの可能性に行き当たって暗澹とした気持ちになる僕をよそに、千佳子先生はまた思い出話に花を咲かせるのだった。


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