プロポーズはワードとタイミング 4
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「春日井先輩、早く七山先輩に告っちゃえばいいと思うんです」
印旛さんは当たり前のように僕に言った。
「そうだそうだ、こんなところに金髪美少女とデートに来てる場合じゃないぞ」
博人も加勢する。エミールといいこの2人といい、完全に他人事だと思って。
ダブルデートというわけじゃないけれど、一緒におみやげを見て回って、今は日本一高い塔のふもとの甘味処でお茶をしている。
「だからね、僕だって別に美菜ちゃんのことが好きだとは一言も言ってな」
「ミヒロはミナのことばかり見てる」
「そうだそうだ」
「早く告っちゃってください」
数か月前まで悶々と悩んでいた印旛さんも立場が逆転すればこのありさまだ。
散々僕の恋バナで盛り上がった博人と印旛さんは、次の目的地へと消えていった。
「ホテルかな」
「高校生がそういうこと言わない」
僕たちはというと、もう一度水族館に入場して鮫を眺めている。
「魚たちだってああやってワタシたちの前で交尾をするし、人間も」
「だからそういうこと言わない」
戯れる魚たちを見ながらしれっと呟くエミールをたしなめる。
「だから日本は少子化社会なんだ」
急にジャーナリストみたいなことを言いだす。
「そうよ、もっとみんな積極的にならないと人間界もダメになるよ」
「そうはいわれても……って詩音さん?」
「ウタネ、オヒサシブリ」
「やあやあ2人とも」
いつのまにか詩音さんが僕たちの横に立っていてギョッとした。どっから沸いたんだ。
「さっきまであの水槽で泳いでたんだよ」
「すぐにバレるような嘘を」
「ああ、さっきまでいたダイバーはウタネだったのか」
「エミールも乗らない」
ボケてるエミールにひらひらと笑っている詩音さん。そんな彼女はいつもと一つだけ違っていた。
「珍しいですね、メガネかけてるなんて」
「あら、よく気が付きましたね」
詩音さんはメガネを自慢するかのように縁をくいっと上げた。そして顔から取って僕の方に向けてくる。
「未広くんもかけてみる?」
言われるがままにかけさせてもらう。ん、これ度が入ってない。視界がぼやけたり頭がくらくらしたりしない。伊達メガネかな。と、一通り周りを見回してみる。魚はそのまま見えるし、詩音さんもいつもの笑顔だ。エミールを見てみると、
「ん?」
視線を自分のところで止めたからか、僕を不可思議そうに見つめるエミール。彼女の瞳はもともと瑠璃色の瞳をしているはずなんだけど、今僕に見えている色は。
「——紫」
まるで葡萄のような紫色に輝くエミールの瞳は、僕が今まで観たことのないそれだった。
「えっ、エミールの眼って紫色だったっけ」
「いや、ワタシは青い瞳」
「未広くんにも紫に見えているなら大丈夫かな」
「何が大丈夫なんですか」
勝手に結論付けている詩音さんに聴くと、逆に聴き返された。
「吸血鬼の特徴は?」
「えーと、血を吸う」
「うん」
「一度死んでいる」
「うんうん」
「からかい好き」
「もう一声」
「赤と青に瞳を光らせる……あっ」
「勘のいい未広くんは好きだなあ」
固まっている僕の顔から眼鏡を取って、詩音さんは含み笑いを浮かべて言った。
「2人とも、ちょっと夏休みの自由研究を手伝ってほしいんです」





