プロポーズはワードとタイミング 3
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新聞部の夏休みの活動は不定期だ。と言うか、来たい時に来てのんびりしているといつの間にか部員が集まっていたりする。せっかくクーラー修理してもらったし。
美菜ちゃんはこっちに来て夏休みの宿題をしつつ、料理部に顔を出しつつ、バイトに精を出している。おかげさまで宿題はほぼ終わったらしく、エミールの宿題を一緒にやっている。
鮫ちゃんは弓道部の活動と並行してこっちに来ては、エミールにこの街の美味しい甘味について逐一レクチャーしている。
千佳子先生は暑い暑いと言いながら仕事の合間にこっちに来て、エミールと談笑している。
榛ちゃん先生は僕たちの誰かがここに来ると部室に顔を出してくれる。せっかく生徒と話を出来るいい機会ですから、って笑顔を絶やさない。
僕はというと、本当に来たいときに来てのんびりしている。夏休み期間中は新聞を書かなくていいし、その日にいる部員としゃべったり涼み亭に行ったりで一日は過ぎていくものだ。
そんな夏休みも中盤戦。8月の中旬に入って夏休みの宿題に本腰を入れつつあった時の話だった。
「ミヒロ、クラゲが可愛いぞ」
僕とエミールは東京の水族館に来ていた。前に令奈と行ったところだ。日本のアクアリウムを見てみたいとのことだったので、案内してあげていた。
「ゆらゆらしてるね」
「ライトアップされて幻想的」
七色に光るミズクラゲに見惚れているエミールはまるで無邪気な子供の様だった。
「ミヒロ、次はあっちだ」
エミールはどんどんと違う水槽へと僕の腕を引っ張っていく。楽しんでいるようで何より。そして様々な魚がいる大水槽にたどり着くと、より一層目を輝かせた。
「大きいやつから小さいやつまでたくさんいる」
「みんなよく仲良くやってられるよね」
「ヤキニクテイショク」
「弱肉強食って言いたい?」
目の前にしているのは魚だけど。
一通り水槽を回った後は、水族館に併設されているカフェでランチをして、お土産どころを見て回っている。金髪を揺らしてあちこちへと興味を移す彼女は僕だけじゃなくて、周りのお客さんやカップルたちからも大注目されていた。
「エミール、ここの魚たちよりも目を引いてるかも」
「この金髪が珍しいのかな」
さらさらとした自分の髪を撫でながら、エミールは不思議そうにつぶやいた。下手したらここの魚たちよりも珍しいかもしれない。
「まあちょっとした目の保養ってことで」
「ホヨウ?」
「こっちの話」
正直こんな金髪美人と腕を組んで歩くことができるのは何たる僥倖か、という話で。改めてエミールをしみじみと見ると、容姿も雰囲気もやっぱり日本人とは違くて、って考えていたら、エミールがいきなり抱き着いてきた。
「ホウヨウ、ってこういうことか」
「抱擁じゃないったら」
このスキンシップも西洋ならではってことなのだろうか。傍からはデートに見られているのか、留学生を案内する同級生に見られているのか。少なくとも美菜ちゃんに見られて後者って説明する自信はないけれど。
「もはやこれデートってやつじゃ」
「ミヒロが好きなのはミナでしょう」
何でバレてるの。
「いつになったらプロポーズするの」
「いきなりいろいろすっ飛ばしてるよね」
「プロポーズはワードとタイミング。逃すと痛い目に合う」
何だか重い言葉を軽々と言われた気がするけれど、そんなアイスコーヒー一つみたいな感じで気軽に告白できるわけもなく。
ていうかそもそも美菜ちゃんは僕のこと、好きなんだろうか。告白するにしても、負け戦は嫌だし……
「でも、美菜ちゃんは僕のことなんか」
「あー、これはもう阿寒湖だ」
「誰から聞いたの」
「あ、それ教えたの俺だ」
いきなり男性の声が聴こえてきて、思わず振り返る。
「博人? それに印旛さん」
「留学生とデートか」
「七山先輩を置いてデートとかスキャンダルですよ」
手をつなぎながら笑顔を見せたのは、博人と印旛さんのカップルだった。





