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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
77/226

プロポーズはワードとタイミング 2

     2


「ちょ、ちょっと待って」

 まるで名探偵が答えを見つけたかのような手の動きでエミールが僕を制す。そして、額に反対の手を当てて悶え苦しみ始める。かき氷の頭痛が現れたらしい。

「これは……まさか毒でも盛られたの?」

「いや、ただの生理現象だよ」

 調子に乗ってかき氷を掻き込み過ぎたのが原因である。

「おっと、留学生さんにはキツかったかな?」

「日本の試練も必要よね、折角留学してきてるんだから」

 目を閉じて悶絶しているエミールを見て、名取夫婦は大層楽しんでいるようだった。日本のかき氷と言う物を試してみたい、ということだったので、涼み亭の季節限定かき氷を食べることにしたら、さっそく先例にやられたというわけだ。

「アヤメ、ほうじ茶おかわり」

 温かいものが欲しくなったみたいで、エミールはあやめさんに助けを求めるがの如く注文する。

「でも味はベリーグッド……いたた」

「気に入った?」

「慣れればダイジョウブ」

 エミールは気を取り直してかき氷と対峙していた。ちなみにお味は宇治抹茶。和風かき氷の人気随一のやつだ。

「はいエミールちゃん、ほうじ茶」

「アリガトウ、アヤメ」

 ゴクゴクと飲み干せるほどにぬるめに淹れてくれたらしい。こういうところの気配りはさすがあやめさんだ。

「未広ちゃんはほうじ茶かき氷」

「ありがとうございます」

 これも涼み亭自慢のほうじ茶かき氷だった。いつもだしてくれているほうじ茶を凍らせてかき氷にしたもの。これがまた美味しいんだ。

「ミヒロ、あとでそっちのやつも一口」

「了解」

 こんな具合で、留学生にも涼み亭を気に入ってもらえているようで接待のしようがあるってやつだった。

 結局、吸血鬼もどきの話をした日、その件は誰にも話さないという協定を結んだ。ミヒロが言いたくないんだったら、ってエミールはあっさりと承諾してくれた。あとはこの通り、エミールの言う通りに一緒に青春を謳歌している。

 今回はエミールがうちにホームステイしていることも知られているし、表向きはもどきだって言うこともバレないので、比較的コソコソとする必要がなくて、こうやって2人でいても美菜ちゃんと栄恵には怪しまれてはいない。

 エミールも毎日のようにいろんな生徒や先生に囲まれているけど、それもだいぶ慣れてきたらしい。今日の新聞記事でそれが加速することは目に見えているけれど、キニスルナ、と超然としていたので安心した。

 さっきの言葉の通り、僕のほうじ茶かき氷をしゃくっと食べて舌鼓を打ちつつ、エミールは僕に尋ねて来た。

「ミヒロのタイムリミットは」

 なんのタイムリミットかは主語をつけるまでもない。

「僕の次の誕生日。冬だね。エミールはいつまで?」

「ワタシはオータムのバースデーが終わったらだから、このスクールが最後」

 エミールはそう平然と言うけれど、夏が終わればあっという間じゃないか。

「本当に戻る術がないんだね」

「色んな人に聴いたり調べたりしてきたけど、ここまで何もないとは思わなかった」

 おそらく僕よりもたくさん調べて、ギリギリまで術を探して来たに違いないんだろうけど、それにしても何も見つからないとは恐るべし。

「当の吸血鬼に聞いたってわかんないって言うんだもん」

 詩音さんに相談しても完全にお手上げ状態みたいだった。調べてみる、とは言ったものの、何も連絡がこないってことは何も進捗がないってことだろう。

「ウタネはすごくよく動いてくれているよ。ただフィッシュアンドチップスを食べていたわけではないと思う」

「こっちではただ涼み亭に行きたいって時あったけどなあ」

 現に合法的に、とか言ってたし。

「ともあれ、アメアラレ。吸血鬼の出身地の日の出国なら何か掴めるかもしれない」

「出身地?」

「ウタネがそういっていた」

 そう言うことは僕にも言ってくださいよ詩音さん。

「なんでも『ソウサイ』っていうのが日の出国出身で、その人の近くを調べれば何かがわかると」

「ソウサイ……って総裁のことか」

 前に言っていた、総理大臣とか大統領みたいな吸血鬼界のトップ。そんな重鎮ならたしかに、何かしら知っているかもしれない。

「総裁って誰なんだろうね」

「ウタネは知っているみたいだったけど、確信がないみたいだったらか教えてくれなかった」

 確信がないにしても手応えがあるのか。詩音さんの電話番号聞いておけばよかった。って、千佳子先生の持ってるあの番号なら幕張さん経由で何とかなるか。

「とにかく、ワタシたちはこっちでこうやって青春を謳歌しながら方法を探そうよ。サマーバケーションだってある」

 前向きなエミールは、そういって拳を握った。僕は肯いて見せるけど、心の底ではエミールの言う通り血迷っているのかもしれない。

「吸血鬼になるなんて、ダメ」

 エミールはそう念押しして、かき氷を頬張った。

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