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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
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鳩が豆大福食ったような顔して 4

     4


「それじゃあ、お姉ちゃんお風呂入ってくるからね」

 夕食が終わった後、姉さんはニコニコしながらお風呂場へと向かっていった。きっと僕が作った肉じゃががお気に召したんだろう。

「ミヒロ、君はシェフになれるよ」

「そんな褒めたってなにも出ないよ」

 エミールもそうらしく、やたら機嫌がよさそうだった。

「春日井家はどう?」

「ミヒロとヒロミの関係が良くて、過ごしやすい」

「それはよかった」

 半年ぶりくらいに帰ってきても、姉さんは姉さんのままだった。特に留学前と変わることなく黒髪を揺らして、僕が料理をしているとちょこちょこと手伝ってくれたりつまみ食いをしたりする。そんな変わらない姉だった。

「姉さんとはイギリスで?」

「うん、ヒロミとは同じ大学のトモダチだった。留学で家を探していたら『なんならうちに来る?』と言われたんだ」

 強引だなあ、うちの姉は。

「まあそのおかげで回り道をしないで済んだ」

「回り道?」

「ミヒロ、タントウチョクニュウに聴くけど」

 エミールは金髪を揺らして、僕の目を掴むように見つめて云った。


「キミは今、死ぬ前に最後に皆に何を遺すかでも考えているのかい?」


 僕は身構えた。エミールは、動じず表情一つ変えなかった。

「どうした? 鳩が豆大福食ったような顔して」

 言葉の間違いなんてこの際どうでも良かった。問題だったのは、どうして僕の秘密を今日初めて出会った留学生に知られているのかと言うことだ。僕が何も言えずにいると、エミールは相好を崩して、柔らかく言った。

「って、そう警戒しないダイジョウブ、ワタシもそうだから」

「ワタシも……って」

「バンパイアモドキ。がんもどき」

 僕の疑問の数々を吹き飛ばす答えを、エミールは言ってのけた。


 そして寂しげに笑った彼女も、また吸血鬼もどきだったのだ。


「ワタシはミヒロに会いに日の出国に来た。同じことになっている人の話を聞きたかったから」

「僕のことはどうやって」

「バンパイアに詳しい知り合いがいる。彼女から話を聞いた」

「姉さん?」

「いや、ヒロミはワタシたちがモドキだってことを知らない。ワタシがそうだと知れたら、ミヒロのこともばれてしまうから。だから言わない」

 姉さんのことだからことを大きくしてしまうに違いないと。

「そしてお願いされた。あなたはもちろん、ミヒロを絶対にバンパイアにしないでくれって」

 僕の名前を出すということは、僕を知っている誰かってことだ。この事情を知っているのは、僕を含めて早代さんと鮫ちゃんと博人しかいない。でも、張本人がそういうわけないし、鮫ちゃんたちはエミールとは初めましてだったから、おそらくこっち側の人間じゃない。

 いや、もう一人知っている人がいたか。

「もしかして、ウタネさん?」

「勘がいいな、ミヒロは」

 僕の血を吸った張本人を一発で当てた詩音さん。彼女がエミールに僕のことを話していたらしい。

「まだこっちの世界にいたんだ。というかイギリスって」

「ちゃんとした仕事と言っていた。フィッシュアンドチップスを妙に食べていたけれど」

 それ、ただの旅行じゃなくてですか。

「とにかく、ワタシはウタネから頼まれた。一つは日の出国でミヒロと一緒に人間に戻る方法を探すこと、もう一つは平穏なスクールライフを楽しむこと」

 いや、とエミールは断ってから言い直した。

「一つ目はワンモア。ミヒロに人間に戻る方法を『探させる』こと。ミヒロ、君は血迷っている。違う?」

 この留学生にはすべてがオミトオシだった。思わず下を向いて、捕まった人のように白状する。

「お手上げなんだ。どうにもできなさ過ぎて。あとは、そのままなっちゃってもいいか、って思ってる」

 詩音さんにも結局相談したし、動いてくれているのはわかっているけれど、今のところ何もできないまま季節が巡っている。それに、行く先が令奈のいるところであれば、怖いところではないと心の奥底では思っている。

「ヒロミをこの世に遺してまでそうなっていいと思っている?」

 エミールはピシャリとそう言った。まるで叱られているようだった。でも、それが真理だ。

「それは」

「そこではっきりと言えないということは、ワタシが来た意味があるってこと」


 だから。そうエミールは前付けして、手を差し出してきた。


「一緒に。青春を謳歌してくれ、ミヒロ」


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