鳩が豆大福食ったような顔して 3
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転校生の留学生はもうちょっと転校の手続きがあるらしく、榛ちゃん先生のところへ行ったところで新聞部も今日はお開きとなった。後輩2人は新入部員に浮足立っていて、終始機嫌が良かった。どうやらエミールを待って女子会でもやるらしい。
スーパーで足りない日用品を買っていつものように家に帰ると、玄関に女性もののスニーカーが置いてあった。リビングの向こう側からとたとたと足音が聞こえて来て顔を上げると、見知った顔が目に入った。
「姉さん?」
僕が呟くと、彼女は笑顔を綻ばせて、靴もまだ脱いでいない僕の方へと駆けてきた。
「たっだいまー」
そして僕がおかえりを言うまでもなく、思いっきり胸に抱きしめられた。春日井広美。僕の2個上の姉さんだ。ようやく留学先のイギリスから帰ってきたらしい。
「やっと帰ってきた」
「飛行機は飛んだけど私が飛ばなかったからねー」
七瀬先輩と話をした日から数日。結局連絡があった日の翌日に飛行機は飛んだけど、姉さんが乗らなかった。体調不良とかじゃなくて、やってた研究が長引いたとのことだった。
「お姉ちゃんが居なくって寂しかったでしょー」
「う、うん」
実際は同居人がいたからそんなでも。とは口が裂けても言えないので、誤魔化しておく。
「まあでも牧穂さんが居てくれたからそんなことないかな」
——何で知ってるの、この姉は。
「いやー、お姉ちゃんは事情通ですのでー」
呆れ驚く僕に、姉さんはビシッと指を立てて自慢げに言った。
「2人きりで楽しかった?」
「う、うん」
「何かあった?」
「何もない」
「意気地なしー」
「それ牧穂さんにも言われた」
「まあ私の部屋でってのも困るしね」
なんで姉さんの部屋前提なんだ。そういうのって普通僕の部屋でしょ。
「とにかく、寂しくやってないようでお姉ちゃんは安心しました」
「僕は姉さんがちゃんと帰ってきてくれて安心した」
「そうやって気遣ってくれる弟が可愛い」
もう一度抱きしめられる。こういうスキンシップはいつものことだから、特に驚くこともなく。それがいいのかはわからないけど。
「よし、何か作るよ」
「わーい、未広の手料理久々! 日本食が食べたいな」
「じゃあ煮物とか」
「大賛成! エミールも日本食食べたいらしいし、大賛成!」
「……エミール?」
どこかで聞いたことのある名前だった。
「おじゃまします」
そしていつの間にか、転校生で新入部員の金髪美少女が隣に立っていてビックリする。
「エミール」
「ミヒロ、さっきぶり。氷見ブリ」
独特の言い回しはさておき、制服姿で立つエミールの傍らにはスーツケースがあった。なんかこんな光景を過去にも見たことあるような。
「エミールおかえり―。ただいまでいいんだよ」
姉さんはまるで家族みたいにその美少女を平然と出迎えた。転校生で留学生で新入部員だ。
「エミールはしばらく家で一緒に生活することになるから」
いわゆるホームステイって奴らしい。家族が戻ってきたと思ったら、また増えたのだった。





