欲望はあれども暑いものは暑いんです 1
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「……しばらくは起き上がらないでね」
目が覚めて、僕の頭上にかけられた声はいつもの早代さんのそれだった。穏やかでやんわりとしている。まるであの時のことが幻想であったかのようだった。
「早代さん、僕は」
「残念ながら。夢じゃない」
けれど、早代さんは残酷な言葉を告げた。思わず起き上がろうとするけれど、体が動かない。
「何だかんだ結構血を吸ったから、動かないでね」
というか、動けない。
「あと1年。血を吸う量で寿命をコントロールできるっていうのは、牧穂から聞いているわね」
早代さんは知っていることを前提に話を進める。吸血鬼の特徴として頻繁に聴いていることであるから、もちろん知ってはいる。
「未広くんの次の誕生日を迎えたところであなたは吸血鬼になる」
「どうして、僕を」
信頼していた相手から裏切られたというからなのだろうか、僕の言葉は震えていて、言葉になっていただろうか。
「私が令奈の母親だから。理由はそれだけ」
その名前を聴いてふと、僕は令奈のもとに行けるのか、と。そんなことを思ってしまった。
「もう少し寝ていた方がいいわ。起きたら最中をあげるから」
早代さんは起き上がれない僕にそう言い残して、僕の目の前から姿を消して、お茶を淹れに行ったらしい。
——僕は18歳の誕生日を迎えたところで、吸血鬼になる。
あの冬に、そう決められたのだった。





