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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
67/226

和洋折衷の美しさは美徳だと思わないか? 2

     2


「おう、ちょうどいい所に来たな未広ちゃん」

「ホントグッドタイミングね」

 涼み亭の敷居をまたぐと、マスターとその奥さんがいつになく大歓迎してくれた。2人ともいつになく満面の笑顔だ。

「なんでそんなに笑顔なんですか」

「いや、やっぱり未広くんも男の子なんだなあ、って思ったのよ」

 何言ってるんだあやめさんは。

「そりゃそうだよなあ、可愛い後輩があんな恰好をすると知った日にゃあ、駆けつけないわけにはいかないよなあ」

 だからこの夫婦は何をわけのわからんことを。

「どうぞどうぞ、奥へ」

 あやめさんに案内されるままに席に腰掛けると、4人がけのテーブルが少し広く感じた。いつも後輩や栄恵と一緒に来ているからだろうか。

 ちなみに今日は美菜ちゃん探しの途中で栄恵に会ったから一緒にと誘ったんだけど、

『お誘い嬉しいんだが、今日はどうしても外せない生徒会の用事があるんだ』

 と、断られてしまった。栄恵が涼み亭の誘いを断るのは珍しい。あまり仕事に気乗りがしてなさそうだったけど。

「……いらっしゃいませ」

 程なくして、涼み亭では初めて聴く不機嫌そうな声色が聴こえてきた。新人さんかな。でも初めて聴くにしては妙に聞き覚えのあるそれだった。思わず顔を上げてみると、目が合った。見覚えのある顔に目を見開いた。放課後をかけて探していた張本人がそこにいた。

「な、な、なんで先輩がいるんですか」

 目の前の後輩は明らかな動揺を隠そうともせず、落ち着きもなく嘆いた。

「あんみつ食べに来たの」

「いやそうじゃなくって」

「なに」

「ライン見なかったんですか!」

「家にスマホ忘れちゃったんだよ」

「もう。何なんですか、もう……」

 美菜ちゃんの表情がころころと変わる。 

 まじまじと見ると、制服がいつもと違っていた。学校のブレザーでもなくて、この店の和装でもなくて、フリフリのスカートをはいていた。

「……メイドさん?」

「わたしだって着たくて着てるわけじゃなくて……」

 顔を赤くしている美菜ちゃんは、か細い声でそう釈明する。

 特に胸のあたりが強調されて、っていうか上の方見えそうだし。というか意外と美菜ちゃん胸が、

「じーっと見ないでください……」

 美菜ちゃんは消え入りそうな声で恥ずかしさを訴える。もはや怒れる気力も残っていないらしい。

「いやはや、そんなじっくりだなんて」

「注文! お願いします!」

 メニューを差し出してくる。さっさとこの場から立ち去りたいという気持ちが全面に出ていた。抹茶クリームあんみつとほうじ茶を注文すると、美菜ちゃんはさっさと背を向けてあやめさんのところに行く、前に立ち止まる。どうやらあやめさんとアイコンタクトをしているらしい。笑顔でウインクを送るあやめさんに、美菜ちゃんは思いっきり首を横に振っていが、あやめさんは笑顔を絶やさずに一度頷いてサムズアップした。

 やがて腹を決めたのか、美菜ちゃんは僕の方に向き直った。そしてなぜか無言で睨まれた。しかし観念したようにため息をついて、小さな声で呟くように言った。

「……かしこまりました、ご主人様」

 それはその声がとても可愛いものだったからか、到底この後輩の口から出るはずのない言葉だったからか。僕は反応できずに固まってしまった。

「あのー、」

「……2度も言わせないでください」

 美菜ちゃんはか細い声でつぶやくと脱兎のごとく、スタッフスペースの向こうへと駆けて行った。残された僕と言えば、訳がわからないまま所在なく視線をさまよわせて、やがてマスターと目が合った。こちらも笑顔でサムズアップだ。

「新手の羞恥プレイですか」

「メイドさんだって大切な日本の風習よ」

「和洋折衷の美しさは美徳だと思わないか?」

 夫婦して涼み亭を和風甘味処にしたいのかメイド喫茶にしたいのかわからない。


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