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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
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和洋折衷の美しさは美徳だと思わないか? 1

   1


 美菜ちゃんが部活にやって来ない。

 なんの変哲もない夏の火曜日の放課後。

 扇風機を動かしても熱風を運んでくるだけの暑さに頭を垂れながら、後輩女子を部室で待って早30分。待てど暮らせども部室には誰も来る気配がない。

 美菜ちゃんは週2〜3回、涼み亭でアルバイトをしている。だから部活に来ないこと自体は珍しくないんだけれど、企画会議をする火曜日にシフトを入れることはほとんどない。それに、アルバイトに行く時は律儀に何かしらの連絡をくれるはずだ。今日ももしかしたらそうしているのかもしれない。

 けれど、今日僕はスマホを家に忘れて来て連絡手段の一つが遮断されてしまっているのでどうしようもない。鮫ちゃんは兼部している弓道部の練習に行ったし、よく顔を出す生徒会長は生徒会室で来客の対応中らしい。榛ちゃん先生は職員室でお仕事中。千佳子先生は10分ほど前に顔を出して出席者が僕だけなのを確認すると『暑いー』と呻きながら立ち去って行った。自分はクーラーの効いた職員室に逃げ込めていいよなあ。

 ちなみに新聞部の部室である社会科準備室にもエアコンはあるけれど、壊れている。このくそ暑いのに、壊れている。修理を依頼しても予算不足でなかなか直しに来てくれない。千佳子先生に言っても『お金がないなら仕方ないよ』と自分は職員室にこもりっきりだ。

「暑い」

 もはや呟いても始まらないし、一人では企画会議にならないので、美菜ちゃんを探しに行くことにした。


「それで、美菜ちゃんを探しに来たの?」

「出張シェフじゃないかと思って」

「今日はあいにく来てないんだよね」

 頻繁に助っ人を要請されている料理部にいの一番に向かったけれど、宛が外れたみたいだ。助っ人っていう表現をしたけれど、一応美菜ちゃんは料理部員でもある。

「きっと急なバイトでも入ったんだよ」

「だよね」

 そうだといいんだけれど。

「心配なんだ」

「まあ、そりゃあね」

 照れくさく言っていると、何やら美味しそうな香りが漂ってきた。北砂さんの後ろをのぞくと、料理部員たちが何やら一様に鍋に向かっていた。

「今日は汁物選手権。題材は完全に自由。おまかせ」

 ちょっと覗いてみると、肉団子スープ、ボルシチ、麦みそのお味噌汁、と各々が様々な汁物を作っているようだった。ある部員に「毒見して見ます?」と言われたものだから恩恵にあずかると、まあどれもこれもおいしい。ホントレベル高いなこの部活。

「北砂さんは何作ってるの」

「私は豆腐とわかめのお味噌汁」

「王道」

「ご飯とたくあんを用意しておくといいことあるよ」

 和食のあるべき姿に立ち返って、喉が鳴った。

「春日井くんもやる?」

「料理?」

「男子料理って言うのを見たいよね。ねー、喜山、幡野ちゃん」

 後輩の男子部員に同意を求めると、一同目を輝かせながらサムズアップ。

「いつも美菜ちゃんとかうちの可愛い後輩の料理を食べるだけじゃあ不公平でしょう?」

 と言いくるめられて、エプロンを着せられて料理をすることになった。

「意外と手際良いねえ。繁忙期は新聞部2人して拉致しようかな」

「料理部に繁忙期なんてあるの」

「大会前とかかなあ、というかうちの部員なんだからその期間は拉致るよ」

 物騒な言葉を呟きながらも、北砂さんは僕を褒める。

「包丁の使い方完璧だし」

「いちおう家では作ってるしね、料理」

「へー、得意料理は?」

「カレー」

「よーし、みんなー! 来週はカレー選手権開催するよ!」

 北砂さんの宣言に、調理室が大歓声に揺れる。というか僕の参加前提だよね、この流れ。

「スパイスとか凝ってない普通のカレーでいいなら」

「それがいいんだよ」

 味噌汁といい、北砂さんは奇をてらったものより王道路線のほうが好みらしい。

 汁物選手権ということで僕は豚汁を作ることにして、各種野菜を切り始めている。大根に人参、里芋に豚肉があった。妙に準備が良いなと思いつつ、目の前の食材と向き合っていく。

「そう言えば、湯西川さんも『未広さんの料理はおいしいんですよ』なんて言ってたなあ」

 懐かしい名前が出てきて、大根を切る手を止めた。

「てかさ、ということは湯西川さん、春日井くんの手料理食べたことがあるってこと?」

「まあ、ちょっと機会があって」

「うらやましいなあ」

 機会があってどころじゃなくって一緒に暮らしていたんだよね。なんて口が裂けても言えないのでぼかしておく。こんなんが漏れたら新聞部の僕が特ダネでスクープされて新聞に書かれる。

 牧穂さんは元気でやっているだろうか。ふいに彼女に思いを馳せた。吸血鬼であった彼女は冬に僕のもとにやってきて、僕を護って、去っていった。あの短い冬のことはいまだに忘れられないくらい鮮明に、脳裏に焼き付いている。春に同じ吸血鬼の詩音さんから聞いたときは相変わらず、って言ってたけど、同じようにどっかで暑さに項垂れているのだろうか。

 そんなことをボーっと考えていたら、北砂さんの悲鳴で現実に引き戻された。僕は呆けたように呟いた。

「あーあ、言わんこっちゃないな」

「ってすごい血だって! 早く止めなきゃ!」

 そんな傍らで、救急箱を要求する北砂さんの慌ただしい声が聞こえる。

 自分の指を見ると、赤い血が流れていた。一瞬痛覚がなくなったかのように思えて、みんな何をそんなに騒いでいるのだろうかと思ってしまった。しかし程なくして我に返るにつれ、激痛に替わって思わず顔が歪んで声を上げた。

「ちょっとじっとしてて、今手当てするから」

 北砂さんの手に包み込まれる。温かかった。

 包帯、消毒、なんなら吾妻先生! と慌ただしく後輩を使う北砂さんの声を遠くに聞きながら、ああ、まだ人間なんだな、僕は。と思った。場違いな感想だとは思う。けれど、今の自分にはそんな感想しか浮かばなかった。

 人差し指に厳重に包帯を巻いてもらった。北砂さんは終始心配をしていたけれど、完全に指の太さが倍くらいになるまでに巻かなくてもいいんじゃないかとは思う。

 その後も美菜ちゃんが行きそうな場所を探したけれど、結局彼女を見つけることはできなかった。

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