夏の話~プロローグ
「ビーフ・オア・チキン?」
飛行機の中でキャビンアテンダントからそう聴かれたので、彼女はビーフを選んだ。だが、機内食を目の前にしても、彼女はそれに手を付けなかった。考え事をしていたからだ。
彼女は、彼女に残された時間をどうしようかと考えていた。これから訪れる国は故郷ではない。彼女にとって2つ目の異国だ。そんな国で、自分自身に残された制限時間を、どうして過ごしていこうかと迷っていた。
「食べないのかしら?」
さっき機内食を持ってきたキャビンアテンダントが不意にそう聴いてきたので、彼女の思考は途切れた。そしてキャビンアテンダントは、彼女の着ている服を褒めて、話を膨らませようとしていた。
「かわいい制服ね」
「留学先のものなのよ。ワタシも気に入っているわ」
「日の出国に行くの?」
「イエス。留学よ」
「私も行ったことあるけれど、あそこは良い国よ」
「イングランドにいるときにトモダチに聞いた。良い国だと信じている」
「良い空の旅を」
「サンキュー」
客との会話に満足したキャビンアテンダントは、従来の客室業務へと戻っていった。彼女はその背中を眺め、ポツリとつぶやいた。
「ひまわりをモテアマシタカッタのかもしれない」
小さく笑って、彼女は考えるのをやめて機内食を食べ始めた。まずは良い国だと信じていれば、それでいいのかもしれない。
とりあえず、日の出国に着いたら確実にすることは決まっている。
自分と同じ存在が、同じ境遇にいる仲間が、どのように日本で過ごしているのかを確認すること。彼女はそれが少し不安であって、少し楽しみでもあった。





