合法的に涼み亭に行けて嬉しい限りです 5
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「高校時代、わたしは恋をすることをしなかった。恋の先にあること。その過程で、わたしは『愛する人の血を吸ってしまう欲望に駆られないか』が心配だったから」
あやめさんは静かな調子でそう続けた。恋の先。多分、付き合って、デートして、体を寄せあって、繋がる。その家庭の中に、吸血族は『血を吸う』という行為があるのかもしれない。
「もちろん、義治さんとお付き合いする中でもそれが心配だったけれど、お互いにそういう存在だったし、おっかなびっくりだったけど欲求は沸かなかった。ただ、わたしたちが恋をしたのは大人になってから。思春期じゃないの」
「俺も思春期に恋はしなかった。ずっと男子校だったしな。おっと、言っとくがその気はないぜ。ちゃんとあやめに一目惚れしたからな」
「あらやだ義治さん」
ちょくちょくイチャイチャするのはやめていただきたい。
「ちょっと2人とも」
「ごめんね茜音」
「今度その話はゆっくりしてやるからな」
「もう嫌というほど聞きました」
両親ののろけ話は聞き飽きているようで、印旛さんは怒る気もなくして話の続きを促した。
「わたしは、あなたに恋をするなとは言っていない。そのあたりはどうしても人間の本能だから。好きになったなら仕方がないわ。だから、恋をして、好きな人とお付き合いをしたら改めて伝えようと思っていました」
一息ついて、博人に目線を移した。
「茜音と、それから、お付き合いする人と一緒にこの話を聴いて、それでも茜音と一緒にいてくれる気があるのかなと……って、聞かずとも、って感じね」
博人の答えは言葉に出さずとも、その目力と表情で伝わってきた。名取夫婦、今は印旛茜音の両親は、安心して、ゆっくりと息を吐いた。
「だったらわたしたちから最後に一つだけ。博人くん」
「博人ちゃん、一生のお願いだ」
あやめさんと義治さんは揃って博人に向き直って、頭を深々と下げた。
「娘を、よろしくお願いします」





