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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
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合法的に涼み亭に行けて嬉しい限りです 2

     2


「合法的に涼み亭に行けて嬉しい限りです」

 まるで違法カジノみたいな言い草は置いておいて、幕張さんは本当に牧穂さんを寄こしてくれた。会合場所は詩音さんたっての希望で涼み亭となった。

「そんなにみんな吸血鬼は涼み亭に行きたいんですか」

「だってあそこの甘味格別なんですもん。牧ちゃんも来たがってたよ」

「牧穂さん、お元気ですか」

「うん、ちょっと今はオフィスに缶詰で山のように書類抱えてるけど、相変わらずです」

 人間界に派遣された後は缶詰って、吸血鬼界ってブラック企業なのかな。そりゃ遊びに来れないわけだなあ、と思いながら、詩音さんに事情を話した。


『わたしは吸血鬼なんです。それでも良ければ付き合ってください』


 印旛さんからの告白の言葉はそういうものだったらしい。幸い博人だったから吸血鬼について知っていたけれど、これ博人じゃなかったら完全にパニック状態になりかねない言葉だと思う。自分の素性を知っておいて欲しいっていう気持ちはわかるけど。

 そして、そんな言葉を受けた博人はその告白を受け入れた。ここまでだったらハッピーエンドだ。赤飯を炊いてお祝いのレベルだ。

 だけど彼女は吸血鬼。その告白の先には少し続きがあった。


 印旛さんが言うには。


『わたしは、人間の血液を毎日補給しないと生きていけません』

 裏を返せば、人間の血液がなければ死んでしまう、ということらしい。まるで僕たちにとっては水みたいな存在。

『でも、人の血を吸いたいと思ったことは一度もありません。血を欠かしたことはありませんから』

 なんでも、家の冷蔵庫にはパックに入った輸血用の血液が完備してあるらしく、毎朝それを飲んでから登校しているらしい。味とか見た目とかあまり想像したくない。

『血を欠かすと人間を襲うのか?』

 博人がそう聴くと、印旛さんは静かに首を横に振って否定したらしい。

『いや、禁断症状に陥るだけで、攻撃性な欲求はないと母から聞きました』

 印旛さんの両親も、そのまた両親も吸血鬼とのことで、母からは人を襲う心配はないとのことでらしい。


 以上のことを聴いたうえで、博人は印旛さんを彼女に選んだ。そして、自分の知っている吸血鬼について話すと、えらく興味を示したらしい。それで、新聞部に相談だ、となったわけらしい。まあ、内心すごく慌てていた博人は部室に来るなりあんな調子だったけど。


 又聞きで要領を得ないかもしれない話をしている途中、詩音さんは、うーん、と度々首をかしげながら、それでも興味深そうに頷きながらメモを取っていた。

 僕の話が終わると、メモを取る手を止めて、少し考えこんで黙り込んだ。その顔が真剣で、千佳子先生と僕はその間、どこかソワソワせずにほうじ茶をお替りした。

 やがて答えが出たのか、メモ帳に書きこんだひとつの単語を丸で囲んだ後、僕たちに向き直って語りだした。

「結論から言いますと、その子はおそらく私たちとは違います。吸血族、とでも呼んだらいいのでしょうか」

 さっき丸で囲んだ言葉は『吸血族』だった。吸血鬼とは違う存在ということが詩音さんの推論らしい。

「私たちを吸血鬼と表現するならば、ですけど。決定的に違うのは、吸血族は生きた人間だということ」

「やっぱりそこですか」

「私たちは一度死んでから、吸血鬼になります。例えば生きているときにそうされて、いわゆる『ハーフ』となっても、私たちに吸血の必要性はありませんし、欲求は生まれない」

 今自分が置かれている状況を振り返っても、確かにそうだ。半吸血鬼であるのに、僕は人の血を吸いたいとこれっぽっちも思わない。眼も黒いままだ。

「でも吸血族は、生きていてかつ吸血の必要性を備えている。少なくとも私たちから見れば異質な存在です」

 確かに、どんな吸血鬼でも人間として生きているうちは吸血の欲求も必要性もない。それは今まで出会ってきた吸血鬼にも一致することだった。

「血を吸いたい欲求はないけど血は必要な存在。何とも難儀なことで。私たちも血は必要ですけど、一日でも欠かしたらただちに存在が消える、とかではないですから。多分、私たちよりも複雑な存在です」

 自分たちのことを棚に上げて、詩音さんは息を吐いた。

「以上、又聞きの又聞きで出した推測です。ご清聴ありがとうございました。というわけで、あやめさん、桜ほうじ茶パフェお願いします」

「かしこまりました、詩音ちゃん」

 かと思えば、あやめさんの方に手を挙げて、期間限定のパフェを注文していた。

「久しぶりに頭使ったら甘いもの食べたくなってきました。未広くんたちも頼んだら?」

 さっきまでの真剣な顔がすっかりデザートモードになったので、僕たちも顔を緩めた。

「うーん、それじゃあやっぱり誰かの血を吸うってわけじゃないんだね」

「そうみたいですね。でも、気になる存在です」

 前みたいなことはないとはいえ、印旛さんが敢えて僕たちに正体を明かしてきたのには何か理由があるのかもしれない。

「本当に血を吸いたくならないんですかね」

「とりあえず、本人に会ってからかな、そう結論付けるのは」

 詩音さんは印旛さんから話を聴きたいらしいので、後日一席設けることにした。

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