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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
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寝込みを襲ったりしませんから 1

     1


「大丈夫ですよ、寝込みを襲ったりしませんから」

 寝る前に背中に告げられたひとことは忠実に守られたらしくて、僕が吸血鬼に血を吸われることはなかった。

 でも目が覚めても、吸血鬼の女性と同居することになるっていう事実は変わらなかった。

「おはようございます、未広さん。冷蔵庫にあるものを適当に使わせていただきました」

 ただ変わっていたのは、昨日までとは違う人に朝の挨拶をするということと、

「おはようございます、って何ですかこの朝食は」

 完璧な朝食が用意されているということだった。思わず感嘆する。

「牧穂さん、料理できるんですね」

「未広さんと、あとお姉さんはそんなでも?」

「いや、普通に出来るけど牧穂さんのはすごいというかなんというか」

 まさに日本人がたしなむべき理想の朝食、といった感じだ。

「味噌汁冷めちゃうので、早く食べてくださいね」

 吸血鬼の美少女——牧穂さんは、自分の分の味噌汁をよそって、テーブルに置いたところだった。

 居候ということで色々と課題はあったけれども、少しずつ何とかしていきましょう、ということでまとまった。とりあえず部屋は姉さんの部屋を使ってもらうことにした。勝手に使っていいのか、っていう問題はあったけれど、同じ女の子だからきっと許してくれるだろう、占有者は今ロンドンだし。と勝手に軽く考えておくことにした。

 炊事洗濯とかは、この通りである。家事は一通りこなせて、虫以外なら怖くないらしい。ただし、虫は勘弁してほしいんですということだ。

「というか、本当においしい」

「気に入ってもらえまして何よりです」

 ただの豆腐の味噌汁なのに、うちにある食材なのに、すごくおいしく感じた。少なくとも僕も姉さんもこの味は食べたことないしつくったことない。

「出汁ですか」

「かつおぶし、勝手に使わせてもらったんですけど良かったですか」

「全然大丈夫です。むしろどんどん使っていただけると」

 姉さんのお気に入りだろうが両親のお気に入りだろうが、おいしい味噌汁が食べられるんだったらそれですべて解決する。

「居候させていただくんですから、これくらいはさせてください」

「料理は僕もできないわけではないので、交替でやりましょう」

「未広さんの手料理楽しみです」

 胸の前で手を合わせて、牧穂さんは期待のまなざしを見せた。

 何気ない朝食の風景。とても登校前とは思えないのんびりとした温かい雰囲気。でも、忘れてはいけないのは、相手は吸血鬼であるということだ。けれど、自分の作った朝食にどや顔を見せて、美味しそうに食べている牧穂さんはそれを感じさせないほどに人間のそれだった。

 本当に吸血鬼と同居することになったという実感はなくて、ただ単に一緒に住む人が昨日とは変わっている。

 吸血鬼とは何か。まだ詳しいことは何もわからないし、聞かなければいけないことはたくさんあるけれど、まずは今のこの状況を受け入れらていることに不思議と安心しつつ、もう一杯味噌汁をお替りした。



 牧穂さんお手製の朝食で英気を養って、制服に着替える。

 玄関に行くと、僕の高校の制服を着こなした牧穂さんがいた。言葉の綾ではなくて、本当に着こなしていた。お世辞抜きにすごく似合っている。

「変なところありませんか?」

「え、ええ、とても似合ってます」

 照れながら言う牧穂さんに、そう答える僕も照れる。素材が大人っぽいから映えるんだよなあ。まだ現役ですって言っても確かに通用しそう。

「女子高生の制服を着るのは久々なので、ちょっと面映ゆいですけど」

 そう照れられるとこっちももっと照れてしまう。

「思春期の反応ですね」

「大きなお世話です」

 毎日こんな感じだと困るので、早く慣れればいいなあと思った。


 知り合いに見られたらからからわれるパターンだったけど、幸い誰にも会わずに学校に登校することができたの。

 生活指導の一環で校門に立っている先生に挨拶を交わしてから、牧穂さんは立ち止まった。

「私は転校の手続きとかがありますので、この辺で大丈夫ですよ」

「職員室の場所分かりますか?」

「はい、あっちですよね」

 指の方向は見事に職員室を指していたので、そのまま牧穂さんを送り出した。

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