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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
59/226

合法的に涼み亭に行けて嬉しい限りです 1

     1


「なになにー、博人ちゃんに彼女が出来たって噂だよ~。そういうのは私に言わなきゃダメなんだからね」

「その子、吸血鬼だって」

「はい?」

 職員室に駆け込んで千佳子先生に事の次第を報告すると、先生は僕と美菜ちゃんが浮かべたような表情をしていた。しかしやがて我に返って、声を上げた。

「待って待って!」

「こっちも事情が上手く呑み込めてないので何も聞かないでください!」

「いや色々聞きたいことあるって!」

「無理!」

 興奮した応酬をしていたら、学年主任の大村先生に『外でやれ!』と言われてしまったので、自販機コーナーに場所を移すことにした。


 冷たい缶コーヒーを飲んで興奮を覚ました後、改めて博人から聞いたことを千佳子先生に話した。ひたすらに『マジですか』みたいに驚きまくった後、慌てだした。

「こういう時ってどうしたらいいのかな」

「いや、どうもこうも」

「まさか牧穂ちゃんたち以外にも吸血鬼がいるなんて」

 その可能性については知っていたとはいえ、まさかこんなにすぐに表れるなんて思わなかった。

「今回は誰かの血を吸うってやつじゃないんだよね?」

「まだ詳しく本人からは聞いていないからあれですけど、敵意はないみたいです」

 というか恋人に自分の正体をサラッと明かすくらいだし、口止めもしていないみたいだから戦う意思とかはないと思う。

「でも、死んでない吸血鬼って」

「それが不思議だって博人も言っていました」

「吸血鬼にもそういう種類がいるのかなあ」

 そう、印旛さんは死んではいない。吸血鬼は一度死んでいるんです、というのは見たり聞いたりして知っているし、本当に吸血鬼なのか、そういう種類の吸血鬼がいるのかはちょっと気になる。

「菜穂子に聴いてみようかな」

「連絡取れるんですか」

 LINEとかはもう使えませんから、と連絡手段を絶たれてしまった僕と違って、千佳子先生はホットラインでもあるというのか。

「絶対に電話しないでね、って電話番号託していったけど」

 お笑いのフリか、と思いながら千佳子先生がジャケットの胸ポケットから手帳を取り出した。それに挟まっていた紙を見ると、何やら番号が目もしてあった。090から始まっているから、確かに電話番号みたいだ。でも、僕が教えてもらった牧穂さんの電話番号じゃない。

「最初は菜穂子本人のかなあ、と思ったんだけど、見覚えないんだよね」

 そう言いつつ、千佳子先生はスマホをタップして、ためらいもなく電話をかけた。

「あ、繋がった。ちょっとスピーカーにするね」

 もう一度スマホの画面をタップすると、スマホの向こうから少し渋めの声が聴こえてきた。吸血鬼界に帰ったら牧穂さんこんなにもダンディに……って、これ男の人の声じゃ。千佳子先生と目を見合わせていると、僕は一人この声の主に思い当って、試しに名前を読んでみた。

「幕張さん?」

『おお、その声は未広君だな。この間は感謝する』

「はい、ってどうして幕張さんが出るんですか」

『この電話番号に電話して来たってことは、吸血鬼の手も借りたい事態ってことだろう』

 電話口の向こうはこないだ非合法に涼み亭にやってきた地区長さんだった。どうして牧穂さんの電話に幕張さんが出るのかはともかくとして、彼も吸血鬼だし、事情を掻い摘んで説明した。聴き終わった幕張さんは興味深そうにため息をつきながら、

『そっちにすぐに言って本人に話を聴きたいのだが、あいにく俺はちょっと今出られない。牧穂もそうだ。だから詩音くんを派遣しよう』

 というわけで、僕と令奈に以前クイズを出してきた詩音さんが来てくれることになった。

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