そうなってればハッピーエンド 3
3
心の隙間を突かれた気がした。別に追及されているわけじゃない。ただ、不思議だから聴いているだけだと思う。だけど、なんでそこにたどり着いたのか。どうして僕が隠し事をしていたのを知っているのか。
「その顔は図星だな」
「何で」
「いや、ここんところの未広、時々影が差すから」
そんな表情を微塵も見せているつもりはなかったのに、博人はよく気が付くなあ。
「今のそんな顔。言わないだけで、俺は未広のこと心配してたぞ」
僕の肩をポンと叩いて、博人は少し寂しそうな顔をした。
「その調子だと、まだ解決はしてなさそうだな。未広にも未広なりの事情があるにせよ、どうだ。ここは一つ俺に相談してみるってことで」
そして、サラッとそう言ってのけた。
ずっと隠していたこと。誰にも相談できなかったこと。鮫ちゃんにしかバレていないこと。自分から意思を持ってこのことを話すとすれば、それは初めてだ。それはとても勇気がいることだ。親友に、こんなことを話せるか。
『私だけじゃない。美菜先輩だって、栄恵先輩だって、博人先輩だって、千佳子ちゃんだって、榛ちゃん先生だって。困ったときは最悪頼ればいいんです』
ふと、鮫ちゃんの言葉を思い出した。僕の隠し事がどんなことであっても、仲間なら何とか協力してくれる。それはわかってる。けど。
令奈の気持ちが分かった気がした。多分、彼女もこうやって僕たちに相談してくれる選択肢を持ち合わせていたはずだ。だけど、出来なかった。親友だからこそ、好きな人だからこそ。
でも、僕にとって博人は唯一無二の親友だ。その親友に暗い顔をさせるのは、親友の仕事じゃない。
覚悟を決めた僕は、静かに言葉を紡いだ。
「……僕、このままだと吸血鬼になっちゃう」
「な、なに言ってんだいきなり」
さすがに博人の声が跳ね上がった。そんな彼に僕は訥々と告げる。
「誰だかは言えないけど、僕は血を吸われて、血を与えられて、吸血鬼もどきになってる」
「牧穂さんか、令奈か?」
「いやその2人じゃない」
博人から2人の名前が挙がってくるのは当然だった。
「それが誰だかは言っちゃいけない。言ったら、それは僕だけじゃ済まないから」
そこまで話してしまえば、今目の前にいる親友でさえも吸血鬼もどきになってしまう。
「ちなみに戻す方法は何もないって。今僕はかつての令奈と同じ状態になってる。しかも僕は寿命を縮められているから、座して死を待つしかないんだ」
「寿命を縮められた、って。いつまで」
「僕がそうされたのが去年の誕生日だから、今年の誕生日を迎えた瞬間。つまり今年の冬だよ」
僕の誕生日は、12月末。2学期の終業式あたりかな。
「そしてなすすべもなく、誰にも相談できず、困ってました。以上。それが僕の隠し事だよ」
言い終わると、博人は当然のごとく唖然としていた。僕の方は、少し胸のつかえがとれた気がした。やっぱり、博人に隠し事をしてしまったけど、心の底ではするのを嫌だと思っていたからだろう。怒られるかな。どうしてそんな大事なことを、とでも言われるかなと覚悟していたんだけど。
でも、博人の顔はすぐに笑顔に変わって、
「……それじゃあ俺は来年、未広に東文の学食でかつ丼をおごってもらえばいいんだな」
親友が吸血鬼になるというのに何を言い出すか。
「なにそれ」
「そうなってればハッピーエンド」
いや、言わずもがなだった。この親友は、博人は、僕に協力してくれる。僕を絶対に助けると言っているのだ。その意図が分かって、僕は思わず噴き出した。
「そうだね」
持つべきものは親友だ、と心から思って、僕は泣くのを必死に我慢した。
「未広未広未広未広」
後日だった。わたわたと博人が部室に駆けこんできた。なんだか尋常じゃない慌て具合だ。
「どうしたんだよそんなに慌てて」
「あの子、うちのマネージャー」
「印旛さん?」
「そう、印旛茜音!」
「ああ、告白上手くいったんだね。おめでとう博人」
「よかったですね、柏崎先輩」
こっちはとりあえずハッピーエンドで済んで、ほっとした。パチパチと美菜ちゃんと一緒に拍手をしていると、博人は次の瞬間、とんでもないことを口にした。
「吸血鬼だった!」
「は?」
「へ?」
部員2人揃って、へにゃへにゃな相槌を打ってしまった。
「印旛茜音イズ吸血鬼!」
……印旛さんが吸血鬼?
「しかも死んでない! 生きてる!」
「はい?」
……生きた吸血鬼? いよいよはてなマークを浮かべる僕たちに、博人は興奮気味に事情を説明した。





