そうなってればハッピーエンド 1
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「博人の想い人調査?」
甘食をかじりながら、栄恵は僕の問いに訊き返した。
「博人を好きな人からのお願い」
「ほう、とうとう博人にも彼女が」
「まだカップル成立かはわからないよ」
「だが、彼女はいないし決まりだろう」
「どうかなあ、あのサッカー少年は」
僕が調査をしてうまくいったとしても、印旛さんの告白を受け入れてくれる自信がない。俺はサッカーに集中したいんだ、とか言いかねない。
「にしても、親友の調査なんてよくも受けたな」
「美菜ちゃんにも言われた。でも別に裏切り者とかじゃないから」
「にしても、コソコソするのはあまり好ましくない」
「栄恵は調査しなくとも僕が好きなのをわかる」
「だったらそろそろ受け入れてくれてもいいのだが」
「ノーコメント」
栄恵は僕をにらみつつ、パックのイチゴ牛乳を一気飲みする。
「ボクは未広が好きだって何百回言ってると思ってるんだ」
「比喩じゃなくて本当に何百回も聴いてると思うよ」
栄恵は昔からずっと告白し続けてくれているんだけど、僕は令奈が好きだったし、今はフリーだろうと言われても、なかなかおいそれと受け入れることもできない。
「大人になっても彼女が出来ても言い続けるから」
「それはそれでありがたいのかもしれないけれど」
別に栄恵のことが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。けれど、恋人にするのは違うというか。と考えて、少し北砂さんの気持ちが分かった気もした。
「ともかく、僕は博人と印旛さんの恋を成就させるために」
「俺がどうしたって?」
「おっと?」
購買から帰ってきた博人が顔を出してきて、思わず声を出してしまった。
「どした」
「いや……」
「未広のコイバナをしていたところだ」
「お、面白そうだな」
食いついてきた。
「栄恵」
「駄弁りから情報を引き出していく。これ鉄則だ」
話を逸らしてくれてありがとうという前に、栄恵はサムズアップを見せた。
「それで誰についてだ」
「ボクが未広のことを好きということについてだ」
「なんだ、いつもの話じゃないか」
博人からしてもその認識である。3年間一緒にいたし、博人も多分何百回も栄恵の告白を聴いていると思う。
「いっそ俺に乗り換えてくれてもいいんだぞ」
「サッカーとボクどっちを選ぶ」
「サッカー」
「ならダメだ」
「残念無念」
お手上げの様子を見せる博人。女子への愛よりサッカーが勝つ始末、印旛さんがそう聴くかわからないけれど、少なくとも『私とサッカーどっちが好きなの?』と聴くような女子とはうまくいかなさそうだ。
「博人は想い人いないのか?」
少しジャブを打ってみる。
「うーん、ボールが友だち」
帰ってきたのは常套句だった。
「まったく。例えばマネージャーとかさ」
もう少し踏み込んでみる。
「マネージャーか」
「ほら、うちの鮫ちゃんの友達で女の子のマネージャーがいるじゃない」
「ああ、印旛ちゃんね。あの子まぶしいんだよなあ。サッカー好きだし。うちに女子サッカー部があれば入りたかった、って言ってるくらいだし」
おっ、好感触。
「でも、彼氏いるだろうあれだったら」
いや勝手に決めつけないでよ博人。
「もしいなかったら狙う?」
「狙わない。俺は多分サッカーに集中するし、下手すれば受験勉強そっちのけでサッカーすると思うし、付き合う女の子に悪いからな」
そう語る博人は少し自嘲気味だった。多分本人は女子と付き合う気がないんだろうなあ、と思いつつ、そっか、と相槌を返す。
「あ、悪い、ちょっと電話だ」
サッカー中継で聴いたことのあるような着信音が鳴って、博人は両手を合わせて僕たちの前から消えていった。
残された僕と栄恵は、
「どう思う?」
「押せばなんとかなると思う」
少なくとも完全に『負け』というわけでもなさそうだった。





