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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
55/226

告白される身分だとお思いですか 3

     3


「……柏崎先輩が、ということだと思いますよ」

 呆れてこの上ない、といった口調で美菜ちゃんが口を開いて静寂を破った。

「わ、わかってるよ」

 そう答える自分の言葉がしどろもどろになっているのは、半ばその告白を本気として受け取っていたからだ。

「告白される身分だとお思いですか」

「僕だって告白の一つや二つ」

「あるんですか」

 嘘じゃない。一つはある。いや、栄恵から好きだって公言されているからそれも含めれば二つか。よし、嘘じゃない。

 答えを誤魔化していると、美菜ちゃんは少し悔しそうな顔をしてから顔をふいと背けた。僕は相談主の女子に向き直る。この子が博人を好きなのか。正直お似合いそうだ。

「博人が好きなの、その、印旛さん」

「はい!」

 目の前の女子、印旛茜音いんば あかねさんはそう元気に断言した。鮫ちゃんが連れてきたのは、僕の親友の博人が好きという女子で、親友の春日井先輩に相談に乗って欲しいとのことだった。

「それで僕のところに?」

「春日井先輩なら柏崎先輩のことよく知ってると思いまして」

 確かに高校入学の時から3年連続でクラスメイトだし、性格とかはよく知ってるけど。

「柏崎先輩のこと、探って欲しいなあと思いまして」

 印旛ちゃんは頭を深く下げる。新聞部であって探偵部ではないんだよなあ、とか思いながら、この後輩たちのお願いと真剣なまなざしを断われるわけもなさそうだった。

「博人のどこがいいの」

「適当そうに見えて、すごく真っすぐなところです」

 印旛さんの印象はすごく的を射ていると思った。よく見ている証拠だった。

「わたし、一応サッカー部のマネージャーやってまして、この1か月間柏崎先輩のことをずっと見てきたんです。かっこいいというか、サッカーに対しても人に対してもなんかすごく真摯な紳士なんです。ダジャレじゃなくて」

 まるで自分のことのように印旛さんは語る。確かに、博人は『何とかなるんじゃ』と的な感じを醸し出しているけれど、裏ですごく頑張っているし、どんなことに対してもその手を抜かない。そこに気が付くとは相当目が肥えている。って僕が言うのはどうかと思うんだけど。

「とりあえず、彼女はいないと思うよ」

「想い人はいるかもしれないじゃないですか」

「想い人も、うーん、聴いたことないなあ。美菜ちゃんは聴いたことある?」

「わたしも聴いたことありません。どちらかといえばサッカー一筋って人ですから」

 時々しか会わない美菜ちゃんからしてもそういう印象であるからして、総じてサッカー少年というのは間違いなかった。ちなみに博人のポジションはいわゆるボランチと呼ばれていて、ピッチの真ん中で体を張ってボールや人を止めたり、あるいは前線にボールを供給して攻撃の起点になったりするすごく重要なポジションだ。技術も体力も必要になるんだけど、しっかりとそれを蓄えているのはさすが博人だ。

「それでも、少しでも脇にわたしを置いてほしいなって思うんです」

「というわけで、未広先輩と美菜先輩お願い! 茜音ちゃんの力になってください」

 改めて鮫ちゃんからも頭を下げられて、僕たち(というか主に僕)は博人の恋事情について調査することになったのだった。


「また安請け合いしちゃいましたね」

「困っている後輩を助けるのは当然のこと」

 鮫ちゃんと印旛さんが帰ってから、美菜ちゃんはまたやりましたね、みたいな感じで僕に言った。

「親友の調査とか、少し後ろめたくありませんか」

「まあ、あんまり気持ちのいいものではないけどね」

 疑惑を探るとかじゃないからまだ気は楽だけど。

「もしわたしが未広先輩を調べろって言われたら少し迷います。でも別に調査するまでもないですけど」

「なんで」

「未広先輩は、調査しなくとも知ってますから」

「ありがとう」

 それは誉め言葉なのか何なのかわからないけど、とりあえずお礼を言っておくことにする。

「でも、きっとまだ知らないこともあると思うんで、覚悟しておいてくださいね」

 公言されるのは嬉しがっていいのか否か。

「あと、さっきの話」

「うん?」

 どの話だろう。

「告白の話です」

 ああ、告白される身分の話。

「わたしだって、告白の一つや二つ受けたことありますし、告白の一つや二つしたいと思ってたりするんですよ」

「二つするのはまずいんじゃ」

「言葉の綾です!」

 勝手に話を始めて勝手に怒っている美菜ちゃんは通常運転で安心しつつ、僕は少し考えた。

 美菜ちゃんには想い人がいるのか。少し残念に思いつつ、もう一度美菜ちゃんを見ると、目を逸らされた、

「ただまだわたしには勇気がないので、その勇気を蓄えるのを待っていてください」

 誰に言うわけでもなく勝手にそう宣言した美菜ちゃんは、軽く拳を握って、自分を奮い立たせているようだった。

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