告白される身分だとお思いですか 2
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「春と言えば恋バナです!」
新入部員はそう高らかに宣言した。
「季節関係ないと思うんですけど。というか夏とか冬の方が」
「ああ美菜先輩わかってない!」
美菜ちゃんが先輩と呼ばれる日が来たのか、と少し泣きそうになりながら、鮫ちゃんの次の言葉を待つ。
「例えば! 未広先輩のような3年生はもう受験へと突入していく身ですし、今のうちに身を固めておかないと受験勉強に専念できません。だから今のうちに恋人を作っておくこと。パートナーがいるのといないとのじゃ大違い!」
鮫ちゃんは持論を力説する。確かに心の拠り所になるのはそうだとは思うけど。
「だから、恋バナをしましょう」
「ちなみに鮫ちゃんは彼氏いるの?」
「絶賛大募集中です!」
大丈夫かなこの恋バナ。
「恋人がいないからこそ恋バナも楽しいってものです」
「ちなみに想い人は」
「まだ!」
「ピュアだなあ」
「未広先輩たちとは違うです」
「たち、ってなんですか」
美菜ちゃんが立ち上がって抗議する。わたしは関係ないです、みたいに言い出しそうだ。
「未広先輩と美菜先輩はリア充ですから」
「何を言いますか」
ハモった。
「そういうところが」
鮫ちゃんは意味深な笑顔を見せながら僕たちを交互に見て、僕の目の前で視線を止めた。
「でも未広先輩って実はモテモテなんじゃないですか?」
「だから何を言いますか」
「ほら、栄恵ちゃんとか料理部の部長に好かれてるし」
「前者はともかく、後者は本当に友達って言われてるから」
「それに、想い人もいるみたいですし」
鮫ちゃんの意味深な笑みは悪戯っぽい笑みに変わる。あれだ、完全にからかわれてる。僕の過去を知ってるからこそからかってる。次はなんて言おうかと考えていたら、美菜ちゃんがずいッと割り込んだ。
「み、未広先輩はダメです」
「なんで美菜先輩がそんなこと言うの?」
不思議そうに、かつニヤニヤしながら問う鮫ちゃんに、美菜ちゃんはほんのりと顔を赤くして、強気に答える。
「先輩はわたしを選んでくれたんですから」
「何を言いますか! 確かにそうだけど」
「あ、あれはやっぱり嘘だったんですね」
「嘘じゃないけどそうじゃなくて!」
「何があったか深くは聞きませんけれどお熱いこと」
鮫ちゃんは呆れ口調で僕たちを眺めていた。言葉の綾、とはよく言ったものだけど。そりゃ嘘じゃないけれどそう言うことじゃなくてですね。
「というわけで、お二人の恋バナは置いておいて」
散々からかって散らしておいて何て言い草だ。鮫ちゃんは少しまじめな口調で、ひとつ提案した。
「私から人の恋バナひとつ持ち込んでもいいですか」
「公式案件?」
「うん」
「記事にしていい?」
「それは成就したらってことで」
鮫ちゃんは後日、一人の女子生徒を新聞部に連れてきた。
そして。
「あの、春日井先輩、好きなんですわたし!」
いきなり告白されたのだった。





