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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
54/226

告白される身分だとお思いですか 2

    2


「春と言えば恋バナです!」

 新入部員はそう高らかに宣言した。

「季節関係ないと思うんですけど。というか夏とか冬の方が」

「ああ美菜先輩わかってない!」

 美菜ちゃんが先輩と呼ばれる日が来たのか、と少し泣きそうになりながら、鮫ちゃんの次の言葉を待つ。

「例えば! 未広先輩のような3年生はもう受験へと突入していく身ですし、今のうちに身を固めておかないと受験勉強に専念できません。だから今のうちに恋人を作っておくこと。パートナーがいるのといないとのじゃ大違い!」

 鮫ちゃんは持論を力説する。確かに心の拠り所になるのはそうだとは思うけど。

「だから、恋バナをしましょう」

「ちなみに鮫ちゃんは彼氏いるの?」

「絶賛大募集中です!」

 大丈夫かなこの恋バナ。

「恋人がいないからこそ恋バナも楽しいってものです」

「ちなみに想い人は」

「まだ!」

「ピュアだなあ」

「未広先輩たちとは違うです」

「たち、ってなんですか」

 美菜ちゃんが立ち上がって抗議する。わたしは関係ないです、みたいに言い出しそうだ。

「未広先輩と美菜先輩はリア充ですから」

「何を言いますか」

 ハモった。

「そういうところが」

 鮫ちゃんは意味深な笑顔を見せながら僕たちを交互に見て、僕の目の前で視線を止めた。

「でも未広先輩って実はモテモテなんじゃないですか?」

「だから何を言いますか」

「ほら、栄恵ちゃんとか料理部の部長に好かれてるし」

「前者はともかく、後者は本当に友達って言われてるから」

「それに、想い人もいるみたいですし」

 鮫ちゃんの意味深な笑みは悪戯っぽい笑みに変わる。あれだ、完全にからかわれてる。僕の過去を知ってるからこそからかってる。次はなんて言おうかと考えていたら、美菜ちゃんがずいッと割り込んだ。

「み、未広先輩はダメです」

「なんで美菜先輩がそんなこと言うの?」

 不思議そうに、かつニヤニヤしながら問う鮫ちゃんに、美菜ちゃんはほんのりと顔を赤くして、強気に答える。

「先輩はわたしを選んでくれたんですから」

「何を言いますか! 確かにそうだけど」

「あ、あれはやっぱり嘘だったんですね」

「嘘じゃないけどそうじゃなくて!」

「何があったか深くは聞きませんけれどお熱いこと」

 鮫ちゃんは呆れ口調で僕たちを眺めていた。言葉の綾、とはよく言ったものだけど。そりゃ嘘じゃないけれどそう言うことじゃなくてですね。

「というわけで、お二人の恋バナは置いておいて」

 散々からかって散らしておいて何て言い草だ。鮫ちゃんは少しまじめな口調で、ひとつ提案した。

「私から人の恋バナひとつ持ち込んでもいいですか」

「公式案件?」

「うん」

「記事にしていい?」

「それは成就したらってことで」


 鮫ちゃんは後日、一人の女子生徒を新聞部に連れてきた。


 そして。


「あの、春日井先輩、好きなんですわたし!」


 いきなり告白されたのだった。


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