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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
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告白される身分だとお思いですか 1

     1


「先輩待ってました!」

 部室に入るなり出迎えてくれた後輩女子は、僕に満面の笑顔を振り撒いてくれた。美菜ちゃんではない。美菜ちゃんがこんなに笑顔で迎えてくれたときは死を覚悟した方がいいかもしれない。

「あれ、今日はこっちだっけ」

「最近根詰めすぎてるから休めって顧問に言われて」

「初めての大会近いんだっけ」

「そんなに大きい大会じゃないですけど、最初は勝ちたいじゃないですかやっぱり」

 鮫ちゃんは拳を握って闘志をアピールした。迎えてくれたのは、鮫ちゃんもとい、新入部員の鮫川衣香さんだった。鮫ちゃんというあだ名は榛ちゃん先生と同じく、新聞部満場一致で決定したものだ。衣ちゃん、とかよりなんか可愛いということで。本人も気に入っていて、すっかり部内では定着している。

「妙にご機嫌だね」

 いつも元気で笑顔で僕たちとワイワイやっている鮫ちゃんだけど、今日は一層笑顔を綻ばせていた。

「実は! こんなものが手に入ったんですよー」

 じゃじゃーん、と効果音をつけて目の前に出してきたのは、とても美味しそうなものだった。

「これ、メイクドの数量限定幻のシュークリーム」

「千佳子先生が出張の帰りに買ってくれたんだって!」

 ナイス寄り道、千佳子先生。ご機嫌の理由はこれだったか。

「紅茶でも入れて食べようか」

「私やります!」

 鮫ちゃんはまるで尻尾を振った子犬のようにお茶置きスペースへと駆けていく。甘いものを前にすると爛々とするのは栄恵みたいだった。

 新入生、新入部員として鮫ちゃんが入ってきて一か月弱経つけれど、まるで前から居たかのように新聞部に馴染んでいて、去年からの面々は少し面食らっているけれど心地よい。適応能力の高さにびっくりだ。

 まあおかげさまで、美菜ちゃんがアルバイトに行ってるときに部室に一人でいることは少しだけ減った。鮫ちゃんは弓道部との兼任だけど、美菜ちゃんがアルバイトでいない日とかはこっちに来てのんびりと一緒に過ごしつつ、しっかり新聞記事も書いてくれる。もう立派な新聞部員だ。

 ちなみに弓道の腕も一級品で、さっき言っていた最初の大会の優勝とインターハイ出場は間違いなくて、下手すればインターハイ優勝もあり得るらしい。今度特集記事を組もう。

「はい先輩。アールグレイでオッケー?」

「オッケー」

「私はアップルティーです。食べましょ食べましょ」

 鮫ちゃんは紅茶を淹れ終わると、どれにしようかなー、と目を輝かせて品定めしている。

「鮫ちゃんほんと甘味好きなんだね」

「甘味は元気の活力! 最近学食の日替わりスイーツが楽しみなんです。生徒会長も見かけるよ」

 あの甘党が参加しないわけがない。

「ちなみに今日は桜あん餅ー。先輩も食べました?」

「僕はあんまり使ってないんだよね、デザートコーナー」

 うちの学食にはデザートコーナーという甘美な響きの場所がある。日替わりでスイーツが売っているのだ。涼み亭もたまに卸してるって言ってたっけ。

「今度先輩の分お取り置きしておきますね。昼休み終わりまでに配達します」

「鮫ちゃんイーツ」

「ただしあまりにも美味しそうだったら現物が無かったりすることも」

「残しておいてよ」

「気分次第!」

 それ、僕が甘味にありつける自信がないんだよなあ。こんな感じだから、甘いもの好きの栄恵とはとことん気が合う。鮫ちゃんを涼み亭に初めて連れて行った時も予想通り2人してテンションだだ上がりだったのを覚えている。

「でもとりあえず先輩がこのまま元気ないままだと確実にお届けします」

「……元気ないかな、僕」

「ちょっと」

 いくら明るく繕っていても、わかる人にはわかるらしい。

「そりゃはっぽーふさがりだし、本当だったらすごく項垂れたい気持ちだってことも重々承知だけど」

 いろいろあったみたいだし、と鮫ちゃんは付け加える。

「でも、私にはもう知られちゃったんですし、きっと何とかなりますよ」

「何とかって言ってもなあ」

「きっとRPGの毒消しみたいな代物がどっかに落ちてたり!」

「するんだったら苦労しないなあ」

「最悪私が弓で未広先輩を打ちます」

「それ何の解決にもなってない!」

 どうにかなる前に死んじゃうって。

「とにかく、私も折角新聞部に入ったんだし、ちょくちょく調べてみるので、未広先輩はそれを頼りにすればいいんです」

 胸に手を当てて、お任せあれ、といった調子で言う鮫ちゃん。

「私だけじゃない。美菜先輩だって、栄恵先輩だって、博人先輩だって、千佳子ちゃんだって、榛ちゃん先生だって。困ったときは最悪頼ればいいんです」

 鮫ちゃんの言うことは真理だった。あの冬を一緒に乗り切ってきた仲間だ。鮫ちゃんと榛ちゃん先生も、冬のことは知らなくたって、話せばきっと協力してくれる。現に鮫ちゃんがこう言ってくれている。でも。

「お疲れ様ですー」

「あ、みなせんぱーい!」

 僕の方を真面目な顔をして見ていた鮫ちゃんは、美菜ちゃんを見て笑顔に変わる。チラリとこっちを見て、大丈夫、と言わんばかりに頷いてから。

「どうしたんですか2人とも」

「いや、なんでもないよ。美菜ちゃんもシュークリーム食べて」

「シュークリーム? ってこれ幻の! お茶用意してきます!」

「私がやるから美菜先輩座ってて!」

 鮫ちゃんは鼻歌を歌いながら紅茶を淹れに行った。


 鮫ちゃんには知られている。僕の知られたくないことの一つを。


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