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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
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早くも目標達成しました 2

    2


 新聞部の目標を達成できたし、生徒会長にも部の存続の確約をもらったし、とりあえず安心した僕は、帰宅して真っすぐベッドへと体をうずめる。新入部員一人も来なかったらどうしようかと思った。去年だったら部員もいなかったし、僕だけのことで済むけれど、今年は美菜ちゃんがいるから部をつぶすわけにもいかず、部長としてのプレッシャーはけっこうあった。

 そういえば、創始者に連絡をするのを忘れていた。LINEで新聞部が今年も残ったことを連絡すると、既読がすぐについて『ありがとね』と返事が来た。僕の姉さんである。

 姉さんはまだ帰ってこない。

 もう、じゃなくてまだ、だけど。去年の冬にイギリスに行った姉さんはまだ留学中だ。多分帰りは夏休み。しきりに連絡をくれているから、生存確認はできている。もしかしたら吸血鬼としてかもだけど。って、冗談ですけど。


『未広さんを護ることができて光栄でした。衣食住も含めてありがとうございました』


 吸血鬼。僕はふと、ひと冬の居候のことを思い出していた。


『ただいま、って言ってください。僕はおかえり、って言いますから。絶対』


 僕は牧穂さんとの別れ際、そういった。もはや家族の一員だと思ったから。牧穂さんは目を潤ませていたけど、泣かなかったのを覚えている。千佳子先生と話してから泣き虫になっていたあの牧穂さんがだ。

「別に僕の前で泣いたっていいのに」

 涼み亭で泣いていたし。


 牧穂さんがいなくなって、季節が廻った。雪は桜に変わって、僕たちの元にひらひらと舞い降りている。なんかの拍子に帰ってこないかなあ、と思う。カレーを作って待ってるから。ああ。

 僕はそう考えてふと、呟いた。


 ——ああ、でもこのままだと僕はまた会えるかもしれないのか。


 スマホの着信音が鳴った。

 画面に表示されたのは、これまた冬以来に名前を見る人だった。


「幕張さん」

「おお、未広くん」

 電話をくれた主の前にはほうじ茶パフェが鎮座していた。

「平日の夕方におじさんが一人でなにパフェ食べてるんですか」

「おじさんが一人でパフェを食べてはいけないという法律はない。どっちの世界にもだ」

 幕張さんはスプーンでクリームを掬ってご満悦だ。とりあえず、対面の席に腰掛ける。

「未広ちゃんいらしゃい」

「あやめさん、ちょっと迷わせてください」

「はーい」

 何を食べたいかが定まっていないので、ちょっと幕張さんの話を聴いてからにする。

「何しに来たんですか」

「パフェを食べに来た」

「じゃなくて」

「君に用事だ」

「僕をご指名ですか」

「吸血鬼の調査を今後も協力頼む、ということをお願いに来た」

「調査?」

「吸血鬼はこの街にまだいる。生徒会会計が襲われた事件、まだ解決していないと聴いた」

 美濃部さんを襲った吸血鬼はまだわかっていない。牧穂さんは真っ先に違うといったし、令奈にしても『私はそんなことしてない』と牧穂さんみたいに怒られたから、犯人はわからずじまいなのだ。

 美濃部さんは美濃部さんで『もう傷も治ったし大丈夫』と言われたし、警察沙汰とかにするのも嫌だったらしいので調査は保留という形になっていた。まあ、令奈との一件でおろそかになっていた部分もあるんだけど。

「こちらの世界から来ているそんな吸血鬼を野放しにするほど、俺たちも甘くはない。だが、調査をしても今ひとつわからないことが多い。それで、君の手を借りたいというわけだ」

 そう言ってもらえるのは正直嬉しかった。美濃部さんの件は何だかんだモヤモヤしていたし、幕張さんに手を貸すこと自体も光栄だ。けど。

「別にいいですけど」

「どうした、その不服そうな顔は」

「不服じゃなくて不思議な顔です。それならあの電話だけでも」

「直接会って義理を通すのも俺たちの仕事だ」

「まさか幕張さん、僕へのお願いは口実で、実は涼み亭に来たかっただけなんじゃ」

 幕張さんは僕の疑問に答えず、ほうじ茶を一口飲んだ。

「否定してくださいよ!」

「確かに合法ではない。俺は非合法に涼み亭に来ていることは確かだ」

「涼み亭に合法も非合法もないでしょう」

 このおっさんは。

「まあ、このパフェは美味しいが本当にそれだけのために来たわけじゃない」

 幕張さんはそう云うと、鞄の中から一枚の紙を取り出して、僕の前に差し出した。パッと見えたそれには、何やら市の名前が書いてあった。

「えーと『人間界における派遣吸血鬼の分布について』ですか」

「その名の通り、吸血鬼が人間界のどこの自治体に派遣されたかどうかのリストだ」

 機密、というスタンプが押されていたそれには、北海道札幌市、福島県会津若松市、埼玉県幸手市、兵庫県姫路市、宮崎県宮崎市、と見たことのある市が書いてあった。その中に『神奈川県南柄市』を見つけて、思わず小さく声を上げた。

「これは牧穂と令奈が吸血鬼界に帰った後のものだ。人数や誰が派遣されているのかは書いていないが」

「幕張さんどんな手使ってこんなもの」

「本当だったら名入りのリストも欲しいところだったんだが、時間が足りなかった」

「無茶しないでください」

「散々詩音くんに喫煙所で怒られたさ」

 幕張さんは渋い顔をする。そりゃこっぴどく叱られるでしょ。

「だから、今後君はこの街で他の吸血鬼に会ってまた巻き込まれるかもしれない。その時は、よろしく頼む。我々もできる限りの協力を惜しまない」

 幕張さんに真面目に頭を下げられて、僕は思わずかしこまって肯定の返事をした。

「それじゃあ、食後の一服と行くか。君は何頼むか決めて甘味を楽しむがいい」

 そう言い残して、立ち上がって背中を向ける幕張さん。そんな彼に、僕は声をかけた。

「あの、幕張さん」

「何だ」

 僕の言葉を待っている幕張さんに、僕は言葉を紡げなかった。

「いや、なんでもないです」

 そう誤魔化した僕に首をかしげながら、幕張さんは店の外へと消えていった。

「名取の奥さん、ちょっと一服してくる」

「あ、幕張さん灰皿持って行ってください」

 そんなやり取りをして幕張さんが消えていくと、僕は思わず大きなため息をついた。

 言えなかった。

 言うべきかどうかもわからなかったけど、言うチャンスであるとは思った。けれど、言えなかった。幕張さんにこんな調子じゃ、誰にも言うことができないかもしれない。

 幕張さんなら絶対に力になってくれる。それはわかってる。でも、むやみなことを言ってもいけない。そんな僕の逡巡は、いつまで経っても答えを出せないままだった。

「あやめさーん! ハンバーグください!」

「はーい!」

 あるのかって? あるんです。あやめさんのハンバーグ、絶品なんです。


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