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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
春の話
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美しいに菜の花の菜で 二

     二


「物好きもいたもんだよね」

「それ、誰のことですか?」

「さあ、知らない」

 未広先輩は手慣れた手つきで壁新聞を掲示板に張り付けながら、思い出し笑いをしているようだった。思い当たる節があるから、わたしは膨れて見せる。

 新聞部の4月の週刊第1号は『新入生歓迎特別号』だった。学校のお勧めの場所、学食のおいしいメニューから先生のテストの癖まで、新入生のために網羅しつくしたつもりだ。未広先輩も満足げだった。全校生徒に対するアンケートや聞き込み調査を行って、先生たちも巻き込んで。この学校のことをまとめた逸品。

 そんなことをやりだそうと言ったのは、わたしだった。

「乗り気でしたね、今回の企画」

「そうかな」

 アンケートとかインタビューとか、わたしの案を全部採用してくれて、率先して生徒会や先生たちに協力を求めてくれたのは他でもない未広先輩だった。

「ところでさっきの話」

「ん?」

「物好き」

「んー」

「知らない、はなしですよ」

 先手を打たれて未広先輩は苦笑いを浮かべて鼻の頭を掻いた。

「んー、強いて言うなら——物好きがいるから」

 またその話。もう一度抗議の言葉を浮かべようとしたわたしに、未広先輩はこう付け加えた。

「こんな小さな壁新聞に興味を示してくれる新入生が、きっといるだろうからね」



 わたしが最初に見た新聞は、新入生歓迎号だった。

 手が込んでるなあ。最初の感想はそれだった。いろんな事が書いてあって、壁で流し見するのがもったいないくらいだった。わたしにはこんなの書けないなあ。

 一体だれが書いてるんだろう、と脇を見ると『南柄高校新聞部』と書いてあった。そして小さく『新入部員募集中!』って書いてあったけど、活動場所とかも書いてないしどこか控えめだった。でも、それがなんか面白くて、料理部に入部を決めているわたしだけど、少し興味が沸いた。

 それからもよくよく読んでいると、どこか違和感に気がついた。

 うーん、と考えてもう一度見出しの脇の文に目を凝らす。

 その違和感の正体を読み解いたわたしは、生徒手帳に書いてある学校の地図に目を落としていた。


 桜がひらひらと舞っていて、心を包み込むような空間だった。地図を基に探し出したのは、学校の裏門近くにある桜が生い茂るところだった。

「こんにちは」

 その空間の中心にある桜の樹を見上げていた男子生徒がいて、わたしを見つけると挨拶をして、柔らかく微笑んだ。黒髪に桜の花びらが一枚舞い降りた。

「新入生、だよね」

「はい。1年3組の七山美菜、です。美しいに菜の花の菜で」

「僕は春日井未広。春に日に天井の井、未来に広がるって書きます」

 未広さん、いい名前だなあと思った。

「よく見つけたね。誰にも見つからないと思ったんだけどなあ」

 そうわたしを褒めるってことは、この人があの新聞を書いたんだろう。ということは部長さんかな。

「——入学おめでとう、さくらのきのしたでまってます」

「お見事」

 斜め読みだった。巧妙に。本当によく読まなきゃ気がつかない。

「というか、しっかりと新聞を読んでくれている人がいるってわかって嬉しいかな」

「読み応えありましたよ」

「ありがとう、七山さん」

「春日井先輩は部長さんですか?」

「うん、新聞部の部長です。新聞部に興味ある?」

「いや、これだけいろいろ詰まったの書けるの凄いなあって思っただけで」

「褒めてくれてありがとう」

 照れる春日井先輩は顔をほんのり赤くして、鼻の頭を指で掻いた。言っておきますがお世辞ではないです。

「七山さんはもう部活は決まったの?」

「はい。料理部に入ろうと思っています」

「そっか。料理部だったら僕の知り合いもいるし楽しいよ、きっと」

 にこりとして、春日井先輩はそう保証した。

「でももし料理部に飽きたらうちの部においで」

「何ですかそれ」

 面白くて思わず笑ってしまった。部長さんがこんなにも控えめだから、新入部員募集があんなに脇に行っちゃうわけだ、となんか妙に納得した。

「いろいろと高校生活楽しんでねってこと」

「はい、ありがとうございます。あと、こんな綺麗な場所を教えてくれてありがとうございました」

「どういたしまして」

 お礼を言う春日井先輩は、笑顔だけど、どこか儚く見えた。先輩との初めての会話は、こんな軽い感じのものだった。


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