春の話~プロローグ
わたしは、人の血を補給して生きていく存在だ。
子どもの頃からそうだった。常に家の冷蔵庫には人の血液が備えてあった。そうしなければ死んでしまったから。
特異な存在であったことを知ったのは最近だった。家にある紅い液体それがずっとトマトジュースだと思っていたんだけれど、実は、どこの得体も知れない人の血だっただなんて、驚きは計り知れなかった。
「私たちは人から血を吸うことはなくて、血だけが必要なのよ」
本当のことを話してくれたお母さんからはそう聴いた。だから、自分から誰かの血を吸うことはないし、そういう欲求も存在しない。
私たち、ということは、お父さんもお母さんもそうだということだった。そしてそのお父さんとお母さんも。わたしの一族は、そういう存在だった。
真実を知ったからとはいえ、血を欠かさなければ生きていけた。だから、特に成長していくうえでも生活していくうえでも違和感も不都合もなかった。けれど思春期だから色々と考えることはある。その中でわたしは、ひとつ考えたことがあった。
この血が途切れた時、わたしはどうなってしまうのだろうか。
一抹の不安を抱えるようになりながら、わたしは歳を取っていった。そして、高校生になった。それでもこの身体は他人の血液を必要としている。過去も現在も未来も。わたしはまるで人を襲わない吸血鬼のようだった。
——本当に、人から血を吸うことはないの?
欲求は確かにないとはいえ、もしこの血がなくなった時に、わたしは血を欲しがって何をするのだろうか。
このわたしが暴走しないように。暴走などあり得ない、けれども、今はそれだけを願っていた。





