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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
44/226

未広ちゃんのことが大好き 3

     3


「デートの後に別の女の子のところに行くの、良くないと思うんだけど」

「それは別に家に帰ったって同じことです」

「それもそうか。でも美菜ちゃんに殴られたくないな」

「それは耐えてください」

「お酒でも飲む?」

「教師が生徒に不良になれって言ってどうするんですか」

「残念。早く一緒に飲みたいなー」

「サイダーください」

「ん」

 まさか本当にリクエストして出てくるとは思わなかったサイダーを飲んで、僕は千佳子先生と向き合う。

「玉砕した?」

「玉砕させたって方が正しいかも」

「お疲れさま」

「良かったんですかね、僕はこれで」

「未広ちゃんが選んだ道なら、令奈ちゃんが選んだ道なら、少なくとも私は責めないよ」

「彼女はこの世にはいないけれど、あの世にはいる。あの世って言っても、この世と行き来可能な所で、会おうと思えば会うことができます。でも、それは今の彼女には許されない。だからってこっちから出向こうにも、僕は吸血鬼にならなきゃいけない」

 まるで酒をあおるように一気に残りのサイダーを飲んで、盛大にせき込む。

「僕が吸血鬼になったら、どんな想いでこの世を見るんでしょうかね。ただ傍観者として、あるいは獲物を狙うハンターとして、愛していた人たちのことを見るようになってしまうんですかね」

 酔っぱらえたらどんなにいいことか、と思いながら連ねてみけど、不良にはなれない。そんな僕をよそに缶ビールを冷蔵庫から取り出してあおっている千佳子先生は、僕の愚痴をしっかりと聞いた後、不意につぶやいた。

「いっそその方が楽なんじゃないかな」

「楽?」

「だってあの2人は、そうなれなかったんだから」

 吸血鬼は人の血を吸って生き永らえるもの。けれど、生き血を吸うことを拒んだ。たとえそれが吸血鬼界の禁忌に反することであっても、最後は人としての感情で。

「吸血鬼には人間の心が通ってる。その時点で私たちの勝ちなんだよ。そして、一生そんなジレンマを抱えて生きていく、私たちの負けなんだよ」

 あー、1本じゃ酔えないなあ、ともう1本ビールを用意する千佳子先生。差し出されたけど、やっぱり断った。むー、と残念そうな顔をしつつ缶ビールを飲み干した千佳子先生がもう一度僕に向けた顔は、

「でもどんな姿であれ、もういちど彼女と出会えてよかった。だって、あの子はまだどこかにいて、どこかでこうして同じ空を見ていられるわけだってわかったから。未広ちゃんもそうでしょ」

 確かに、僕は令奈を見て戸惑いながらも安心した。たとえ吸血鬼としてだけれど、その姿を見られて、本当に良かった。だってそれは二度とあるはずもないことで。そう色々考えてくると、何かが込み上げてきた。

「未広ちゃんの泣き顔、久々に見たな」

「好きで泣いているわけじゃ、ないんですから」

 どう強がっても流れてくる涙にあらがうことは出来なくて、僕は千佳子先生の胸で泣いた。

「不純異性交遊」

「これ以上何もするつもりないから大丈夫」

「意気地なし」

「うるさいです」

「……先生のまな板だなあ、とか思ってないよね」

「いや、浅間山くらいかと」

「複雑で的確な指摘やめて」


「あら、朝帰りですか」

 日が昇ってから帰宅すると、牧穂さんはしれっとそう笑った。

「千佳子先生のところって言ったじゃないですか」

「教師と生徒の間でも間違いはあるかもしれません。まあなっても私は大歓迎ですけど」

「あと10年早かったらそれもありだったかもですね」

「今のは千佳子に内緒にしときます」

 牧穂さんはちょうど淹れていたコーヒーをマグカップに入れて、持ってきてくれた。

「寝ますか?」

「いや、このまま起きて学校行きます」

「絶対落ちますよ」

「試験も終わったんですし、もういいんです」

 あとは試験の返却と振り返りくらいだから、全然寝てても問題ないのだ。千佳子先生もきっと眠いはずなので、少なくとも国語の授業は許される。

 ソファーに座って一息つくと、やっぱり眠さが襲ってきた。まだ6時だし通学までには時間があるから少しでも寝るかな、ああでも着替えなきゃ、と思っているうちに、いつの間にか意識が途切れていた。


「あら、早めのお目覚めで」

「わっ、牧穂さん遅刻!」

「今日は日曜日です」

「……あれ?」

 令奈とデートに出かけたのが土曜日だから、そうか今日は日曜日か。

「牧穂さん分かっててさっき否定してくれなかったんですね」

「あらどうでしょう」

 牧穂さんは悪戯っぽい笑みを見せて、キッチンへと消えていく。

「未広さん、今日はご飯とパンどっちがいいですか?」

「じゃあパンで」

「かしこまりました」

 もう牧穂さんお手製の朝食も食べられなくなっちゃうのか。というか、送別会でもやった方がいいのだろうか。そう盛大にやるのもどうだろう、なんて考えながら、僕は牧穂さんに訊いた。

「最後の思い出は何がいいですか」

 振り向いた牧穂さんは即答した。

「デートがしたいです」

「誰とですか」

「未広さん」

「デートはもう終わりました」

「もう一声」

「千佳子先生連れていきますよ」

「別に未広さんと2人でも問題ないんですけどね」

 と悪戯っぽく言われたけどこっぱずかしいので、意地でも千佳子先生を連れていくことにした。


「千佳子―、朝ですよー」

 ドア越しに千佳子先生を呼び出したけど反応がない。

「寝てる」

「寝てますね」

 僕と夜通しトークしたからとはいえ、もう朝ではなくて13時過ぎだ。そろそろ起きていてもいいころなのに。もう一度呼び鈴を押そうとしたら、ドアがガチャリと開いた。

「千佳子、髪ぼさぼさです」

「……今起こされたばかりなんだもん」

 あくびを押し殺しもせずに、千佳子先生は眠たげな眼をこすった。髪は散らかっていて、化粧はしていないようだった。完全なる寝起きの姿だった。

「生徒にすっぴん見られて恥ずかしいと思わないんですか」

「……未広ちゃんならいいもん」

 前に言ってたことと180度違うんですが。

「ほら、さっさと化粧をして身支度して遊びに行きますよ」

 生返事で千佳子先生は奥へと消えていった。元気な千佳子先生がいるのは、牧穂さんの気配りとやさしさがあってこそだなあ、と思った。


 結局僕たちは3人で涼み亭に行ったりショッピングをしたりして午後を丸々使って遊んだ。

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