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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
43/226

未広ちゃんのことが大好き 2

     2


「待った?」

「ううん、今着いたところ」

 そんな有りがちなトークを交わしたところで、令奈とデートに出かける。と言っても、死んだはずの令奈がこの街をうろついてても危ないので(記憶操作はまだ不安定らしい)、少し遠出して東京の水族館にでも行くことにした。

 なぜか令奈は制服を着ていた。

「何で制服?」

「だって久々に着るの楽しいんだもん」

「僕も制服の方が良かったからな」

「その方が嬉しかったけど、全然大丈夫だよ」

 さ、行こう、と水族館のチケットカウンターへと突撃する令奈。テンション上がってるらしい。制服デートもいいもんなのかなあ、と思いながら、僕もその後に続く。

 東京の水族館で、クラゲを見て、イルカを見て、ペンギンを見た。はしゃぐ令奈の笑顔が見られて眼福だなあ、と思いながら、僕は目移りして歩き回る令奈の隣を歩いた。ちなみに僕のお気に入りはチンアナゴとマグロだ。

そしてソフトクリームを口の端につけて、それを指摘されて笑っている令奈は、とてももうすぐお別れするそれではなくて、とてももうこの世にはいないはずのそれとは思えなくて、これからもこういうデートがいつだってできる、そんな感じに思えた。

 そして日も暮れるころ、僕たちはこの国で一番大きな塔のふもとにいた。

「でっかいねえ」

「スマホの写真が入りきらないよ」

 どうにかして塔の全景をスマホのカメラで収めようとしている令奈は、カメラマン張りに構図を検討しているが、どうにも決まらないらしい。全長700メートルくらいだったっけ。東京タワーよりは大きいと言っていた。

「そういえば、私ってカメラに映るのかな」

「どうだろう、一応幽霊みたいな存在だし」

「試してみよう」

 令奈はそう言って、僕を隣に引き寄せてスマホのカメラを構えた。いわゆる自撮りの構図だ。

「って令奈」

「はーい未広ちゃん笑って」

 カシャ、っというシャッター音がした。スマホの画面を確認した令奈の顔がほころんだ。

「映ってる映ってる!」

「映るんだねえ」

「未広ちゃんに送っとくね」

「ありがとう」

 LINEの鳴る音がして確認すると、令奈から写真が送られてきていた。いわゆるツーショット。笑っている2人が照れくさくて、僕は鼻の頭を指で掻いた。


 夜道。当てもなく歩いていると、やがて大きな川にぶち当たった。カップルが岸のベンチに腰掛けていたので、僕たちも座ることにした。座るなり、令奈は僕に問いかけた。

「未広ちゃん」

「何?」

「今日はありがとう」

「こちらこそ」

「本当だったら未広ちゃんの誕生日に誕生日祝いー! ってやりたかったんだけど。その前に帰ることになっちゃったから」

「仕方ないよ」

「去年は祝えなかったから、今年は祝おうかなって思ってたのに」

 僕の誕生日は12月25日。クリスマスってやつだ。そして終業式。その日に令奈は帰る。

「……それに、私の誕生日も祝えなかったでしょ」

 今日一番元気のない声で、令奈はポツリとつぶやいた。

「あの日に死んじゃったことはごめん」

「今更だよ」

「うん、だよね」

「謝ってくれたから許す」

「未広ちゃんが優しい」

「僕は優しい方だと思うよ」

 その言葉に令奈はにっこりとする。やっぱりこの笑顔が好きだった。

「ねえ未広ちゃん」

「うん」

「ちょっと聴いてほしいんだ」

「どうぞ」

「私は、未広ちゃんのことが大好き」

「うん」

 令奈はそう突然告白した。僕は平然を装って、短く相槌を打った。本当はすごく嬉しくて、本当に恥ずかしいのを必死に隠して。

「それは吸血鬼になっても変わらない、私の正直な気持ちです。受け取ってください」

 令奈は言い切った後、じっと僕を見つめて、離さなかった。僕はその顔から目を逸らせず、言葉を迷った、けれど、けれど。

 その先の言葉を紡がなれば、僕らは前に進めない。だから僕ははっきりと云った。

「それは僕が。僕が君に、君よりも先に、もっと早く言わなきゃいけなかった言葉だよ。君に。令奈に。それをはっきりと伝えるのは僕の役目だったのに」

 僕はそれを怠った。ずっと続くからと思っていて、それをサボった。この世界に永遠なんてないのに。たとえ吸血鬼が永遠だとしても、それはそっちの世界での話だ。こっちの世界では、永遠なんてものは何処にもない。だから僕は言っておかなきゃいけなかったのに。

「だから、僕は僕の罪を背負うために、前に進むために、敢えて今こう言わなきゃいけない」 

 ギュッと目を閉じた。もう一度開いたら涙がこぼれそうなくらいだった。言葉よ出てこい。本意だけど本意ではない、けれど、その言葉を絞り出せ。


「——僕は、高津令奈のことが好き『でした』」


 たとえ令奈が目の前に存在したとしても、吸血鬼という実体として僕の目の前に告白してくれたとしても、僕は、それを受け入れてはいけない。


 ——だって、僕は吸血鬼にならなかったんだから。


 僕の答えを聴いた令奈は、うん、と一言だけ頷いて、吹っ切れたような笑顔を見せた。

「……そんなんだから、未広ちゃんが大好きなんだよ」

 それから、これくらい許してね、と僕の頭を撫でて、ポツリとこぼした。


「嫌でも生きていればよかったかな、私も」


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