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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
41/226

わたしたち遊んでるんじゃないんですが 6

     6


 僕は初っ端からそんな質問をされて、思わず秒で訊き返した。モニター越しに見える詩音さんの顔は、至って真面目なそれだった。

「私たちには聞こえていますが、令奈ちゃんには聞こえてません。だから、未広君のありのままの答えを聞かせてください」

 これ以上交渉しても詩音さんは答えてくれなさそうだ。何だこの心理テストは。いや、令奈に聴こえてなくても残りの人たちには聞こえているわけで。つまりはこっぱずかしいこと言えるかっていうんですよ!

「未広君」

 詩音さんは僕を促す。僕は大きくため息を観念して、か細い声で正直な気持ちを絞り出した。

「……好きですよ、はい」

「了解しました。では、次の質問です」


 しばらくは、普通の質問が続いた。好きなものとか、新聞部についての質問とか、美菜ちゃんや牧穂さんについての質問。最初の質問に比べては答えることにつっかかりがないものだった。令奈と交互に質問しているのか、僕が答えた後次の質問に移るまでは少し時間があった。詩音さんは『へー、そうなんだー』とかいちいち相槌を打って、まるでインタビューを受けているみたいだった。普段取材する方が多いから少し変な感覚だった。

 それが50回くらい続いて、とうとう最後の質問だった。僕のプロフィール全部吐き出した気がするぞ。

 詩音さんは『これが最後です』と前置きしたうえで、僕に質問した。

「どちらかは助けられるけれど、どちらかしか助けられない。あなたは、どちらの人を助けますか。A——高津令奈さん」

 トロッコの先には作業員がいて、みたいなアレか。ここで令奈の名前を出してくるところはまあいいとして、Bは誰だろう。姉さんとか出されても困るぞ。なんて構えていたら、


「B——七山美菜さん」


 告げられた名前に、思わず身体を上げてモニターを両手で叩いて、詩音さんを見据えた。

「制限時間はありません。じっくり考えて、未広君の答えを出してください」

 それきり、詩音さんは何も言わずに僕の答えを待っているようだった。

 これが究極の2択というのだろうか。そもそも、これに正解なんてあるんだろうか。僕に答えを選べというのか。

 僕の思考は停止してしまって、床にへたり込んだ。

「こんなの、ずるいや」

 呟いた言葉は誰もいない部屋に消えていく。こうやって時間が過ぎていけばどれだけいいだろう。けれど、これに答えなきゃ令奈は救えない。でも、僕は決断できなかった。どうしてよりにもよって美菜ちゃんなんだ。これが姉さんだったら。姉さんだったら……?

 いや、たぶん僕は嘘をつけない。令奈を助けるためなんだから、って容易く令奈を選ぶことはできない。僕は姉さんを切り捨てられない。それに、嘘をついたっていい結果はやってこないって詩音さんは言っていた。

「ちなみに、どっちも、っていう答えの時点でこの課題はクリアできないから、その覚悟で」

 やっぱり究極の選択を意地でもしなければいけないらしかった。

 試験官からの注釈によって、お茶を濁すこともできない。どうしたものか、と頭を抱えてどれくらいが経っただろうか。

「未広君、寝ちゃってない?」

「寝てないですよ」

「私は寝ちゃいそうでした」

「制限時間はないって言ったのそっちでしょう」

「にしてももう1時間経ったよ」

「うそ」

「で、答えは出た?」

「いや」

 結局、いくら考えても答えは出なかった。それどころか、混迷していた。

「期限を設けなきゃダメかな。あと30秒で決めてください」

「短い!」

 いきなり残り時間があと少しになって、慌てて頭の中で思考を再開する。


 そもそも、そんなの迷うことない。だって僕が好きなのは。


 だから、そんなの迷うこと、


 ——割り込んできたのは、美菜ちゃんの顔だった。


 ないわけないじゃないか。


 ——浮かんできたのは、美菜ちゃんのいじけた姿だった。


 だって僕は。


 ——流れ込んできたのは、美菜ちゃんの笑顔だった。


 僕が助けたいのは。


 僕が一人の名前を答えると、詩音さんは安心したのか息をついて、事務的な声で告げた。

「お疲れさまでした。合格です。以上で課題を終了します」

 そして、みんなの元に帰ってきた瞬間の僕と令奈を揃って抱きしめて笑い弾けた。


「本当に2人ともお疲れさまでした! よかった!」


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