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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
39/226

わたしたち遊んでるんじゃないんですが 4

     4


「うーん、私はたまたまこの街に買い物をしに来たんです」

 どうしてこの街に来たのかを牧穂さんに問うてみると、牧穂さんはそう答えた。

「服とかですか」

「いや、和菓子です」

「和菓子?」

「はい。勾玉堂、ってご存じありませんか」

「ああ、あそこ」

 その名前を聴いたことあったのは、去年新聞部の『甘いもの特集』で取材させてもらったからだった。たしか年配の夫婦で営んでいたような。

「美味しいきんつばがあるとお聞きして、なんなら幕張さんも食べたいというものですから、買いに来たんです。確かにおいしかったですけど」

「なんでわざわざ」

「幕張さんは『上の指示』とは言ってたのを覚えてます」

「地区長の上、って誰なんですか?」

「地区長がこの世界でいう市長ですから、その上に都道府県知事と同じような方角統括長がいるんです。そしてその上には、中央総括委員。国会議員ですね。そして総括委員長、いわば総理大臣がいて、その上に総裁がいます」

「総裁」

「天皇陛下みたいなものです」

 日本の象徴である天皇陛下。総裁も、吸血鬼界でそういう存在なのだろうか。

「まあ、誰も顔を見たことないから素性はわからないんですが」

「わからない?」

「顔も名前も知りません。でも、確かに存在はあるんです。それが総裁です」

 象徴というかもはや伝承のレベル、ってまるで僕たちの言う吸血鬼みたいな。吸血鬼界のツチノコ的存在か。でも存在するだけツチノコとは違うのか。

「おそらく、中央総括委員ですら謁見したことはないでしょう。秘書というか側近が一人いるんですが、その方くらいしかお姿を知らないらしいです」

 とにかく秘密のそのまた秘密の存在らしい。

「そんな総裁が、下々のものに『勾玉堂のきんつば』をお使いさせるのは不思議だったんですが、もっと不思議なのは、たまたま中央総括に会う機会があって聴いてみたところ、きんつばの話は俺も知らない? って言われたことです。いつもその総括には話を通っててもおかしくないんですけど。本当に特命事項だったらしいです」

「特命事項」

「トップダウン、と呼ばれるものですね」

 その単語を頭で反芻して、僕は一つ思い付きを口にした。

「……もしかしたら総裁なら令奈を吸血鬼にできるんじゃ」

 ハッとした牧穂さんは、それでも横に首を振った。

「考えられない話ではありませんけど、総裁自身がそんな法律ギリギリのことをするなんて」

「総裁だからこそ、ギリギリのことができるんじゃないですか」

 うーん、と考え込んだ牧穂さんは、それでもお手上げの表情を見せた。

「だとしても、私が手を出せる相手じゃありません。吸血鬼のほとんどが存在だけしか知らない相手に立ち向かうだなんて、ほむらにじょうろで立ち向かうようなものです」

 それでも、牧穂さんは決して否定はしなかった。

「もしたとえそうだとしても、私たちは目の前のできることをするしかないんです」

「課題、ですか」

「私の記憶は無事に戻りました。戻った途端は、死ぬ時よりつらかったですけど、こうやって令奈ちゃんと向き合ってみようという気持ちになれました。あとは、未広ちゃんと令奈ちゃんが頑張れば大丈夫です」

 自分が選ばれたのがなぜだかわからなくても、牧穂さんは僕だけじゃなくて令奈を助けようと心を決めた。だったらその心意気を守るのが、護られる側の役目かな。

「ちょっと寄っていきましょうか、勾玉堂」

「きんつば買っていきましょう」

 美味しかったんですよ、なんだかんだ言って。と思い出し笑いをする牧穂さんにもう一つ思い付きを口にする。

「……総裁がただ単にきんつばを食べたかったとか」

 思わず二人足を止めて、お互い顔を見合わせて笑った。

「いや、まさか」

「ですよね」

「まさか」

 乾いた笑いを二人浮かべながら、

「それでたまたまこの街に行ってたから令奈ちゃんをそうすることになった、なんて言ったら私、総裁と刺し違えますよ」

 割と本気な口調で怒りをにじませる牧穂さんだったけど、僕はそれを止める気にはなれなかった。


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