やっと名前で呼んでくれたね 4
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「だからって部活休みにしてここにサボりに来たというわけですか」
「だって美菜ちゃんバイトでいないし、顧問たちは大事なお話中だし」
「はい、クリームあんみつです」
言い訳をする僕に「いつもよりクリーム多めです」と付け加えてから美菜ちゃんは次のお客さんの接客へと向かう。文句を言っている割にはサービスがいいところを見ると、美菜ちゃん的には良くできました、ってことらしい。
「素直に褒めれば未広ちゃんも嬉しいと思うなー」
「あやめさんは余計なこと言わないで次の甘味を作ってください。ほうじ茶パフェお願いします」
「はーい」
あやめさんはひらひらと手を振りながら、ホイップクリームを持ってキッチンへと消えていく。続いて、他のテーブルからも注文の声が挙がって美菜ちゃんはそちらへと駆けていく。代わりに厨房から義治さんが出てきて、僕の前に座る。
「たまにはボーイズトークと洒落込もうじゃねえか」
「何の話するんですか」
「コイバナとか」
「かわいいこと言っちゃって」
「男の子が可愛くあっちゃいけないって法律はねえぞ」
義治さんからコイバナだなんて言葉が出てくるところが面白くて、思わず笑ってしまった。確かにたまには男同士の話もいいなあ、と思っていたら、義治さんは初っ端からストレートを打ち込んできた。
「令奈ちゃんのことまだ好きなのか」
「……好きでいちゃいけないんですか」
義治さんに当たったって仕方がないんだけど、いきなり核心を突かれたからか、自分でも少し声が尖がった気がした。
「そうは言ってねえけどよ。ただ、もう少し今周りにいる奴らを見てあげた方がいい、ってことだけよ」
辺りを見まわして、あやめさんも美菜ちゃんも仕事中だということを確認しつつ、僕は正直に言った。
「わかってますよ、好意くらい」
「わかってるが、令奈のことが引っ掛かってる」
「というか正直、恋とか愛とかまだ僕には早いというか」
「なんて言っているうちに、想い人がいなくなっちまった。違うか?」
僕は閉口する。わからないから、と告白せずに来たのは僕だ。もしかしたら、令奈の方からそうされるのを待ってたのかもしれない。でも、結局僕たちは。
「令奈ちゃんが好きなのは結構。思い出の中に残るのも結構。だが、前に進むべきじゃないのか。もう一度あいつと会えたなら」
義治さんは、なぜか僕が令奈ともう一度会えたことを知っていた。
「え、どうして令奈のこと」
「昨日うちに来た」
どこへ逃げていたかと思えば、涼み亭で糖分補給もしていたと。というか本当にどこ行ったんだよ令奈は。
「全部包み隠さずに話してくれたさ。ひたすら泣きながらお汁粉を3杯も食べた」
口の中が甘ったるくなりそうだなあ。
「どうしていいのかわからない、と言ってた。自分の思うこと、やること、どれが正解なのかわからない、と。ありゃしばらくダメだな」
義治さんはやれやれ、と首を振って見せる。
「未広ちゃん、お前はどうしたいのか。お前はどうするのか。それだけは決めておけよ。その上で、令奈ちゃんを正しい道に導いてやれ。それが男ってもんだ」
自分はどうしたいのか。
死んだはずの令奈が再び僕の前に吸血鬼として姿を現して、僕の血を吸わないと彼女が危ない。僕たちその話を聴いただけで、彼女の気持ちも、僕たちがどうしたらいいのかも、全然わかっていない。事情を知ったみんなは、この短い期間で思うところをどう整理しているんだろう。聴いてみたくとも、僕自身が何もわかっていないから、問い返された時に困る。
「死んだ人間に会えるということは通常あり得ない。俺たちが死んだって、その先でそうできるかはわからない。でも、今それが出来ていることは、どんな不思議な状況であれ幸せなことだ。だからこそ、しっかり考えろってことよ」
この状況は特異であって、でも、想い人にもう一度会えていることは幸せなこと。だからこそ今後自分がどう向き合っていくのか。千佳子先生たちがしっかりと向き合うんだ、僕もしっかりとしなきゃ。
「あー、早く酒の飲める年になってもっと未広ちゃんの話を聴きたいなあ」
「義治さんに絡まれそう」
「俺は酔ったって正気を保てるっていう話ですよ」
「あら、わたしを落とした飲み会の日のことをお忘れで?」
ちらりと笑顔で顔を見せたあやめさんは、そのまま厨房へと消えていった。
「ま、まあ、色々あるんでってい! ……あやめさん、ごめんって」
その後を追いかけて、厨房の向こうでひたすら頭を下げる義治さん。夫婦喧嘩は犬も食わぬ、か。入れ替わりに、大きなため息とともにお汁粉を載せたお盆を持った美菜ちゃんがやってきた。
「あやめさん、しばらく機嫌なおしてくれなさそうだね」
「お仕事が増えそうです」
美菜ちゃんは呆れつつ、名取夫婦をうらやましそうな顔をして見ている。
「でも、ああいう夫婦もいいと思います」
「え?」
「な、なんでもありません! ほら、さっさとお汁粉食べて家に帰ってください。帰って報告できる相手がいないと、牧穂先輩も寂しいですから」
僕の前にお汁粉を置いて、パタパタと美菜ちゃんは去っていった。この後輩は、わかりにくいようでわかりやすいと思った。





