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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
最期の冬の話
210/226

わたしの血、吸いますか? 4

     4


「未広くん、彼女さん来ましたよ〜」

 病室にやってきた千広さんが大きめの声で告げると、ドアの向こうから「ドンガラガッシャン」という擬音で表現するにふさわしいとんでもない音がして、そのあとしばらく静寂が訪れた。なんかデジャヴだった。

 ドアをずらして開けた千広さんに「ほれほれ」みたいな感じで促された美菜ちゃんは、顔を赤らめて俯きながら、僕の元へ、とぼとぼと歩いてくる。後ろをついてきていた影森ちゃんはペコリと頭を下げたあと、美菜ちゃんに向かって首を傾げてみせた。

「美菜、未広先輩は彼氏だったんですか?」

「いや、ええと……」

「じゃあ私が取っても問題ありませんね」

「なっ」

 美菜ちゃんが聴いたことのないような声を出して勢いよく影森ちゃんの方を向いた。「冗談です」と、影森ちゃんは面白がっているようにあしらう。

「と言うのが冗談です」

 ……人の病室で修羅場を繰り広げるのはやめてほしい。

 そしてひとしきり揉めたあと(主に美菜ちゃんが荒れていたんだけど)、ああ未広先輩いたんですか、と言う表情を2人して見せるのもできればやめてほしい。

「驚きましたか先輩」

「別に」

「驚いてもらわないと私が窮地に立たされます」

「自分で仕掛けたのに何を言いますか」

 全然危機に立たされているような感じが見受けられない影森ちゃんに思わずツッコミを入れる。

「あとは美菜がもっと取り乱します」

「だからそれは影森ちゃんが」

「美菜、昨日から取り乱し続けてて大変だったんですから」

「それは言わないでって……」

「とまあ、親友と先輩をからかうのはこの辺にしておきます。何か買ってきます。甘いやつとしょっぱいやつ見繕ってくるのでごゆっくりと」

 気を利かせてくれたらしい影森ちゃんは、軽快な足取りで病室の外へと消えていった。

 散々と影森ちゃんに掻き回されて残された2人はなんとなく無言で向き合う。あいかわらず美菜ちゃんは頬を赤くしながら、僕に目を合わせようとして逸らすを繰り返していた。やがてその頻度が小さくなって、

「あの先輩、よかったら……」

 小さく静寂を破った美菜ちゃんは急に真面目な顔になって、僕に問いかけた。


「わたしの血、吸いますか?」


 5秒くらいお互い固まって、そんな様子に思わず吹き出すと、美菜ちゃんはただでさえ赤い顔をもっと真っ赤にして怒った。

「ちょ、ちょっと先輩! 人が真面目にどれだけ心配したと思って」

「ごめんごめん。でも大丈夫だよ、美菜ちゃん」

 そう笑いかけると、その意味が伝わったようで、美菜ちゃんは顔をくしゃくしゃにしながら、いつもの笑顔を返して。ちょうど帰ってきてドアのところにもたれていた影森ちゃんは合格点をくれそうな顔をしていた。

 そんな2人にもう一度改めて宣言して、僕はようやく人間に戻れた気がした。


「僕はもう、大丈夫だから」

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