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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
最期の冬の話
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ツンデレはデレなきゃツンデレじゃない 4

     4


「あなたは、未広くんを助けたいんですか?」

 ぼくは目の前で文庫本に目を落としている神宮寺女史に尋ねてみた。

「城見くんはどう思いますか?」

 返ってこないかもしれないと思った答えは、逆質問だった。

「ぼくは、あなたは未広くんを助けるためにぼくを拉致したんだと思います」

「それなら、それでいいんじゃない?」

「そう思ったなら、実際に助けてくれるならそれでいいんですけど」

「それは交渉決裂だね」

 神宮寺女史は残念そうに首を振って肩をすくめた。とても残念そうなそれには見えなかったけど。本音が見えてこない人だな、と思った。言葉に意味がこもっていないとは言わないけれど、その言葉に信憑性があるかどうかを疑うような感じ。

「でもあなたに危害を加えるつもりはないから安心して」

 そう言って、窓を開けて部屋に風を送り込む。ラーメンを食べ終えたところで暑かったので、刺激的な冬の風が心地よい。

「悪いわね、うーみゃーイーツで」

「よく使ってましたから平気です」

「よくどころか毎日使ってそう」

「キッチンで作られた手料理なんてしばらく食べてないかと」

「身体壊すわよ」

「もう壊し気味かなと」

 最近勾玉の精製で全然寝てなくて、やっと未広くんに渡せて寝られると思ったら、吸血鬼勢がやってくれました。そもそもあなたがたが特攻してこなければぼくは安穏の睡眠が約束されていたはずなのに。しかしながら。吸血鬼勢は特にぼくに対して追撃をしてくることもなく、さっきの女史の言葉は本当みたいだった。

「衣食住の世話もしてくれて至れり尽くせりなのはいいんだけど、あなたはぼくに何を求めているのかがわからない」

「勾玉」

「勾玉の研究は解ります。でも」

 それ以外にぼくは彼女から与えられた大きなミッションを抱えている。


「――鉛玉は、何をするための道具なんですか?」


 神宮寺女史の瞳が、やすりで磨いたかのように一瞬、でも鈍く光った気がした。

「聞かずとも知っているくせに、君なら」

「じゃあ単刀直入に言います。刺し違えるつもりですか?」

 神宮寺女史は、静かに首を横に振った。

「刺し違えなくとも、約束を守れなければ刺されるかもしれないので」

 何のことだろう、と思いながら、ぼくはポケットの中から黒く丸いものを取り出す。勾玉の研究とともに並行して作っている鉛玉は、吸血鬼の命を奪う唯一のアイテムだ。人間に戻すための勾玉の生成がてら、鉛玉も精製しろと言われたのは襲われた日の話。もう少し手を加えれば完成なそれを手のひらで転がしていると、神宮寺女史はそれをひょいと手に取った。


「だから、私はあなたを頼るんです」

 

 鉛玉を眺めながら薄い笑みを浮かべる彼女を見て、ぼくの存在が彼女が言う『最高の結果』につながるピースなことは間違いなさそうだと言うことは理解できた。ただその結果は、未広くんにとってどうかはわからないけれど。

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