表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
最期の冬の話
193/226

私の望む、最高の結果 5

     5


「……ぼくは、生きてるのか」

 銃撃が収まって、ぼくはその場に生きていることを感じて、倒れた身体を起こした。直接銃弾が当たったわけじゃないらしく、痛みはガラスが刺さった額だけだった。額を手のひらで拭うと、ドロっとした赤いものがまとわりついてきた。

「今だったら吸血鬼も飲み放題なんだけどね、血液」

 そんなことを呟きながら、僕は白煙で覆われた研究室を這いつくばりながら、あたりの様子を見回してみる。翡翠色の勾玉は粉々に割れて転がっていて、僕は思わず天を仰いだ。


 ぼくは無事でも、勾玉は無事じゃなかった。


 あれだけ徹夜したのに、とかは割とどうでもいい。未広くんを助ける術が一つ消えてしまったことが、本当に悔しかった。また一からやり直しと言っても、時間も素材も残されていない。しかもこの研究室の再建も込みで。詰みだ。

 いきなりかつての恩師に襲撃を受けるとは思わなかった。何の防衛準備もできていないにもかかわらずあれはひどい。

 とりあえず結構な銃撃にも関わらず命からがらも助かったので、未広くんと日向さんと椎香ちゃんにはメッセージを送っておく。きっとパニックになっているだろうから、無事だということはとりあえず伝えておくことにした。

 続けてメッセージを送ろうとしたら、何かがこすれる音が聴こえて、煙幕の向こうにまだ誰かいることに気が付いた。

 総裁まだいたか、と身構えていたら、不意に煙幕が晴れた。立っていたのは僕の恩師で吸血鬼界の総裁、高津早代……じゃなくて、別の女性だった。知らない顔だった。

「あなたは」

「高津早代の側近です」

 万事休すかな。諦めて手を上げるぼくに、彼女は告げた。

「その手を下ろしてください」

「……投降も許さないんですか、厳しいなあ」

 未広くんを助ける前に、ぼくが死ぬとは。

 しかも、高津先生じゃなくてそのお供に殺されるとは。そうされるんだったら親玉の方がよかったなあ。

「私はあなたたちを殺しません。吸血鬼にもしませんので」

 冷酷な言葉をかけられると思っていたから、ぼくは拍子抜けして言葉の主を見上げた。その瞳は、睨むようなそれではなく、憎しみも悲しみもない、ただ透明なそれだった。

「仕留めないんですか、ぼくを」

「言葉の通りです」

「総裁にとって、ぼくは厄介な存在のはず」

「総裁がそう思っていても、私はそう思わないので」

 彼女は事務的な口調で続ける。つまり今の言い分だと、彼女は高津先生とは別の意思を持って動いているってこと? 

「そもそも、あの方はこのことを知らないんですし、手を下せようがないんですが」

 ぼくのちょっとした予想は、続けざまの言葉で裏打ちされた気がした。高津先生の声が聞こえたはずなのに、彼女はそれを知らないという。

 つまりそれはこの側近女史が高津先生に記憶魔法をかけたか、あるいは。

「じゃあ君が」

 肯定も否定もせず、側近女史は話を続ける。

「春日井未広が吸血鬼になる予定の日まで、私の指定する場所に隠れていてください。衣食住は保証します。手足を縛ったりもしません。ただ、必ず勾玉を完成させてください。決して春日井未広の一味に見つかってはいけません」

 女史の提示してきた条件は、想像のはるか上を行くくらいに超えてきた。

「側近なのに、どうして」

 彼女は僕の質問には答えず、半ば被せるように告げる。

「いいから、言うことを聴いてください。それが私の望む、最高の結果になるんですから」

 つべこべ言わずに聞け、と言わんばかりに、女史は少し怒った調子で言った。

「いいですか。私はあなたたちを決して吸血鬼にはしません」

 それだけは忘れないでください、と付け加えて、側近女史は一枚のメモを渡してきた。そこには、地図が描いてあって、ある四角のところに、赤丸が付いていた。

「ここに行けと」

「家主には話を通してあります。身の安全が確保されていることは伝えて大丈夫です。あと、勾玉はもうダメだということは、伝えておいてください」

 残念そうなそぶりを全く見せず、側近女史はそう嘯いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ