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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
最期の冬の話
190/226

私の望む、最高の結果 2

     2


「それで美菜に打ち明けたと」

「押し切られました」

「2人とも、よくできました」

 昨日の顛末を話したら、影森ちゃんはそう褒めてくれた。もちろん、キスしそうになったこととか避妊がどうたらって姉さんが言ってたとかは抜きにして。

 ちなみに姉さんに事情聴取したら「自己防衛のためだからまだヴァージンだよー」って実の弟の前でそんなこと言われても。聞いたのは僕なんだけどさ。

「それで、愛の告白はしたんですか?」

そしておととい愛の告白をしてきたこの後輩は、平然とそんなことを聴いてくる。いや、でも目は少し逸らしていた。どうやら気になっているらしいということはわかった。そりゃ告白してくる人だもんなあ。

「いやいや。それは全部終わってからって」

「そうですか。フェアじゃないと思うので、私もそうすることにします」

「僕の唇奪った時点でアンフェアだと思うんだけど」

「親友とは言えども、女の戦いは怖いんですよ」

 怖さを微塵にも感じさせない口調で影森ちゃんは言う。真面目に戦わせたらどっちが勝つのかは正直見てみたい。

「どっちが特別な関係になれるかは、未広先輩にかかってるんですからね」

 ほんのりと顔を赤くした影森ちゃんからそんな責任重大なアンサーを委ねられて、悩みの種が増えるばかりだった。

「おつかれさまです、失礼します」

 そんな中、噂の影森ちゃんの対戦相手が入ってきた。僕の顔を見て一瞬目を背けたけれど、必死に修正して、平静を保ったまま向き合った。

「治りましたか先輩」

「おかげさまで」

「……何もしてませんけどね」

 美菜ちゃんはポツリと言ってから、僕の前に座っている影森ちゃんの姿を認めた。表情が少し緩んだ。

「椎香来てたんですか」

「昨日のお見舞いのこと、根掘り葉掘り聞いてた」

影森ちゃんがそう言って見せると、美菜ちゃんは顔をトマトのように真っ赤に染めて、言葉にならない抵抗をしようとしていた。

「未広先輩助けてください」

「むしろ助けてもらうのは僕なんだけどなあ」

 絶対に攻撃の矛先がこっちに。ほらもうファイティングポーズ。

「大丈夫何も言ってないから」

「なんかあったみたいじゃないですか? その言い方だと」

「未広先輩は黙る!」

 そして興味津々な顔に変わってしまった影森ちゃんをよそに、怒りモードの美菜ちゃんから怒鳴られた。

「まあ何かあっても私が気にすることじゃないんですけど」

 口調と表情が完全に一致していなくて、彼女たちは次の瞬間には「さて何があったの」「何もないです」と言うやりとりを繰り返していた。

 肩で息をしている美菜ちゃんのことを見世物のように、そしてあしらいつつ、としている影森ちゃんもなかなか鬼畜だなあ、と思いながら、眺めていたら、影森ちゃんが切り出した。

「にしても、なんで何でオンラインなんですか」

「研究所がひどい状況になってるからって」

 今日は2人はここに喧嘩しにきたわけじゃなくて、城見先生の話を聞くために来たのだった。とうとう勾玉ができ上がったらしくて、その詳細を話してくれるらしい。連絡があって研究所に行くって言ったら、人呼べる状況じゃないから、とオンライン通話になった。

「あの研究所散らかってたから、ひどいのはいつものことでは」

 影森ちゃんの指摘にうんうんと頷く。そんなやりとりを見ていた美菜ちゃんは首をかしげて不思議そうにしていた。そしてやがて問うてきた。

「オンラインでなんかあるんですか、今日」

「勾玉の話を城見先生から……って、ん?」

「はい?」

「普通に部活に来ただけ?」

「いえ、今日はバイトなんです。制服置きっぱなしだったので取りにきました」

 机の上に置いてあった巾着袋を手に取って、美菜ちゃんは踵を返した。

「それでは先輩、健闘を祈ってます」

 それだけだった。部室を去っていった美菜ちゃんに何も声をかけられなかった。 昨日との落差についていけず、僕は思わず視線を彷徨わせた。美菜ちゃんにことの次第は説明したはずだったんだけど……予定は何も知りません、という勢いで去っていったから完全に忘れられていたのかな。昨日のあの必死な美菜ちゃんはなんだったんだろうと言いたいくらいの塩対応だった。

 やがて「やれやれ」と言いたげな影森ちゃんと目が合った。

「見捨てられましたか、とうとう」

「かもね」

「そんなに自信なくされるとこっちが困るから元気出してください」

 なぜか影森ちゃんに励まされつつ、僕たちはノートパソコンを開いて、通話アプリをセットした。

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