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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
19/226

あなたはどの面下げて未広先輩の前に現れたんですか 2

     2


 というわけで学校へは重役出勤。昼休みに入った教室に入ると、栄恵と博人が僕の席のそばで購買のパンを食べているところだった。僕に気が付くと、2人とも手を振って応えた。

「行ってきたのか」

「うん」

 主語のない問答だけれど、言わずともわかっている。席に座ると、目の前に焼きそばパンが差し出される。

「とりあえず昼飯」

「ありがとう」

 この2人は敢えてそれ以上は何も聞かず、いつもの昼休みを過ごそうとしていた。それを心地よく思って、僕は焼きそばパンをかじる。

「そういえば、牧穂さんは?」

「愛しの後輩と学食に行ったよ」

「最近ますます仲良くなってる」

「親近感を覚えたんだろうな。未広を護る気持ちは同じだと共有できたみたいだし、それはボクも同意だ」

「牧穂さんは美菜ちゃん化しないんで欲しいんだけどね」

 春日井家での一件以来、妙に美菜ちゃんは牧穂さんに懐いているようだった。明らかに新聞部での接し方が柔らかくなった。牧穂さんもまんざらでもないらしくて、両者ウィンウィンらしい。

「唯一許せないのは、同居していることぐらいだろう」

「栄恵だって怒ってるんでしょそこは」

「言わせるのかそれを」

「なんでもありません」

「ボクとしては、完全に納得いったわけじゃないんだ」

「わかっておりますとも」

 少なくとも栄恵も美菜ちゃんも、僕と牧穂さんが同居していることについては過去も現在も未来も納得しないと思う。

「まあでも、美少女吸血鬼と同じ屋根の下、って未広も現金だよなあ」

 博人にも吸血鬼のことを話したら案外普通に受け入れてくれて、このとおり少しうらやましがられてすらいる、

「別に好き好んでそうなったわけじゃないし」

「でも損ではないだろう」

「それはまあ、うん」

「……さっきの焼きそばパン返してくれないか」

 不機嫌そうにつぶやく栄恵をよそに、最後のひと口を胃に押し込む。続いて博人からメロンパンを渡されたけど、口に入れる瞬間に栄恵に横取りされた。

「甘いものを食べるのはボクの仕事だよ」

 なんて言い訳をして、顔をほころばす。

 いつもの昼休み。本当だったら、もう一人いたかもしれない昼休み。何もなければ、またクラスが一緒だったのかもしれない。もしかしたら、この何気ない会話の輪の中に、あるいは学食での美菜ちゃんたちの中に、彼女がいたかもしれない。そう考えてしまうと、少し悲しくなった。

「そんな暗い顔をするな。代わりにこれをあげるぞ」

 栄恵の手のひらに載っていたのは、最中だった。

「どっから出したの」

「ボクは手のひらから和菓子が出せるんだ」

「そんなニッチな能力」

「あればおやつには困らない」

 どこぞの物語でそんな異能力がある人がいるとは聞いたことがあるけど、異世界でのお役立ち度は本当におやつ程度だと思う。

「それに未広を笑顔に出来る」

 ほれ、と差し出してくる手のひらから最中を手に取ってひと口で食べる。つぶあんだ。甘くてほおが緩む。それを見て栄恵と博人は目を見合わせて、ニッと笑った。

 ありがとう2人とも。それが2人の気づかいなのは言わずともわかるから、敢えてお礼も言わないで笑って見せた。


「そういえば、からくりを明かしたのはいいけど、吸血鬼調査の方は進んでるのか?」

 不意に博人が尋ねてきた。

「うーん、今のところは空振り。結局校内の犯人はわからずじまい」

 昨日の顛末で牧穂さんが吸血鬼だということは新聞部界隈では周知の事実となったわけだけど、肝心の美濃部さんを襲った吸血鬼の調査は難航していた。

「ボクも色々当たってるんだが、証拠が何一つ出てこない」

 美濃部さんの首の傷以外に、証拠たり得るものはない状態だった。

「吸血鬼自身がわからないって言ってるんだからなあ」

「もしかしたら、栄恵と博人が吸血鬼かもしれないし、クラスメイトがそうかもしれないし」

「疑心暗鬼になりそうな案件だが、ボクは大丈夫だ」

 それは一番僕が確信しているから、敢えて肯定の相槌もしない。栄恵は僕に嘘をついたことがないし。

「ボクが吸血鬼だったら即キミを虜にしているからな」

 本当に嘘偽りなさそうな感じだった。

「俺が吸血鬼だったらとっくにお前の首取ってる」

 博人も言葉の通りだろう。

「美菜が吸血鬼の可能性もないだろう。未広の血を吸え、だなんて指令が来てたら真っ先にこの世の終わりのような感じになる」

 あたふたして隠し切れない美菜ちゃんを想像して、少し笑ってしまう。

「クラスメイトを疑いたくはないし、この学校の生徒を疑いたくもないんだが」

 生徒会長として栄恵として、それはしたくないのだろう。うーん、と悩む栄恵と博人を見つつ、僕の頭の中に一つの案が浮かんできた。

「とりあえずおびき寄せてみる?」

「おびき寄せるって」

「僕が囮になればいい」

 ふと思いついた打開策に、栄恵は「危ない真似はやめろ」と怒った。でも、それが一番の方法な気がする。餌を置いておけば、それを狩りに来るものはきっと現れる。最近牧穂さんが常に一緒にいるから、吸血鬼も手を出せないのかもしれないし、隙を与えるチャンス。

 善は急げで、学食にいる2人のところに行って同じ提案をしてみると、美菜ちゃんからこっぴどく叱られた。けれど最終的には牧穂さんの口添えもあっておとり捜査が採用されたのだった。

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