私の望む、最高の結果 1
1
「……機嫌直してくれないかなあ」
「嫌です」
「大好物のお菓子買うから」
「それは当然です」
美菜ちゃんもスイーツを買ってきてくれたし。
泣き腫らして目も顔も真っ赤な美菜ちゃんは、つーん、と言った感じでにべもなかった。ここまで落ち着かせるのにしばらくかかった。ようやく泣き止んでくれたと思ったらこの不機嫌モード。そりゃそうだけどさ。
それはそうと。
「……風邪うつっちゃうよ」
「いいんです」
なぜ美菜ちゃんが僕の膝の上に座っているのか。それはいいんですか。それは当然なんですか。ベッドの上であぐらをかいて座っているその上に、美菜ちゃんが座っていた。泣き止んだあと、何も言わずにちょこんと乗って、僕の胸にまるでくつろぐがのごとく体を預けている。
「なんであんなメッセージ送ってくれたんですか」
「いや、ふと謝りたくなって……」
「わたしがわかってたことをわかっていたなら、それを送ったら誤解するかもしれないってわかってたはずですよね」
「面目ないです」
僕は何も抗弁できず、ただただ美菜ちゃんに平謝りし続けていた。
『ごめんなさい、美菜ちゃん』
熱のせいもあったのか、そんな一文をLINEで美菜ちゃんに送ってから寝落ちていた。そしたら美菜ちゃんが全速力でここまできたというわけだ。
「……ほんとに、もう遅いと思ったんですから」
僕に対する気持ちが爆発したのと走ってきたのとで、熱を出している僕よりも顔が真っ赤だった。そりゃいきなりあんなもの送りつけられば焦るなあと。
他人事のように言ってるけど、なぜあんな文を送りつけたのかは熱にうなされていた時の僕に聞いてください。
「ちなみにいつからご存じで」
「紅葉の頃にはもう」
「……悲しませちゃったね、長い間」
「入院までしたんですから」
多分僕のことを考えて心労になったんだろうなとはわかっていたんだけど。
「先輩は吸血鬼になっちゃうんですか?」
「はい」
「わたしに何も告白せずになっちゃうつもりだったんですか?」
「いや、それは」
「それは」
「ムードとか雰囲気とかそういうものがあってですね」
「十分にチャンスは与えていたと思うんですけど」
告白するチャンスを結局ここまで来てしまって、結果的に美菜ちゃんの堪忍袋が切れてしまったというわけだ。
「まあ、今もすごいチャンスだと思うんですけど」
そう小さく言って、美菜ちゃんは目を逸らした。僕の部屋、2人きり。いよいよ覚悟を決める時が来たか。吸血鬼もどきのことがドーピングになるならそれはそれでいい、とようやくしっくりして、僕は口を開いた。
「えーと、美菜ちゃん。僕はき」
「ダメですそれは最後です」
美菜ちゃんは首を横に振った。
「言えっていう雰囲気だったじゃない」
「未広先輩のことが全部終わったら、わたしはそれを聴きます」
告白が終わったと思ったら、告白が宿題になった。
「先輩は果報者ですね。待ってくれる後輩がいるんですから」
「意気地なしでごめんなさい」
「そこまで言ってませんが確かにそうです。そんな先輩に一つお願いがあります」
「なんでも聞きますとも」
「なんでもって言いましたね。じゃあ今すぐ人間に戻ってください」
「出来ればそうしてます」
「ですよね」
美菜ちゃんは厳しい顔をふわっと緩めて、ようやく笑みを浮かべてくれた。
「……カレー」
そしてふと、小さく言った。
「牧穂先輩が『未広先輩のカレーはとっても美味しいんですよ』って言ってたので。初詣が終わって、おせちにもお雑煮にも飽きると思うので、その時にごちそうしてください」
念を押すように、美菜ちゃんは僕の目をまっすぐに見据えた。
「約束ですから」
そして付け加えるように、美菜ちゃんは顔を赤くしながらもじもじとして言った。
「あと、それ以上のことももちろん最後に」
今、とても近いことはしている気がするけれど。
「でも」
恥ずかしそうに目を彷徨わせていた美菜ちゃんは、覚悟を決めたように僕を見据えた。
「……でも、キスくらいはいいと思うんです」
美菜ちゃんも熱にやられてるんじゃないかと言うくらいの勢いで、僕に顔を寄せてくる。その距離がゼロ距離に縮まろうとしていた時。
「落ち着いたところでケーキでもどうぞ」
僕の姉さんがそれを打ち破った。美菜ちゃんは慌ててベッドから飛び上がって、僕の足をクッションのように踏みつけつつ、脇の床に正座した。
「ありがとね、美菜ちゃん」
「こちらこそありがとうございます、広美さん」
「お姉ちゃんでいいんだよ〜。あ、でもまだ避妊はするんだよ? 持ってなかったらあげるから言ってね」
美菜ちゃんは鯉のように口をパクパクさせて慌てていた。
「姉さん! てかなんで持ってるの!」
「さて、何ででしょう」
彼氏いないって言ってたのに。事情聴取決定だ。





