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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
最期の冬の話
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ドーピングでもなければ、恋仲になれないかもしれません 4

     4


「榛ちゃんおはよー」

「おはようございます、東金先生」

 朝の通勤途中、タピオカを手に抱えた榛ちゃん先生の後ろ姿を見かけたので声をかけた。榛ちゃんはタピオカを飲んでいたストローから口を離し、少し恥ずかしそうに笑って挨拶を返してくれた。そして歩く速度を落として私の隣に並んでくれる。

「今日はあったかくていいねえ」

「そうですねえ。タピオカが美味しい気温です」

「いつも美味しいものなんじゃない?」

「それもそうなんですけどね」

 悪戯っぽく笑いながら榛ちゃんはつぶやいた。学校までの道中、世間話をして過ごす。榛ちゃんもすっかりうちの学校に慣れて、もう新人さんではなくて頼りになる教師さんだった。私が散々体調を崩しているおかげで教壇に立つ回数が増えているからかもしれないけれど。

 クラスのみんなの話をしているうちに、未広ちゃんの話になった。今一番心配で、今まで教えてきた中で一番心配な教え子だ。


 ……だって後少しで死んじゃって吸血鬼になっちゃう、だなんて教師生活の中で初めてなんだもん。人生でも初めてだけど。


 私の死んじゃった親友が吸血鬼になって会いにきたっていうのが去年の冬のお話。そして教え子が吸血鬼もどきっていう存在だと知ったのが今年の冬のお話。一年間も気が付けなかった私ももちろん悪いんだけど、未広ちゃんも未広ちゃんだ。せっかく事情を知ってるんだから、もっと気軽に相談してくれても良かったのに。

というわけでそんな感じで私は納得していないんだけれど、

 私は思わずぼやいた。

「あとは未広ちゃんの件が解決すれば冬休みなのになあ」

「誕生日が期限……ってその日そういえば終業式じゃ」

「そうなんだよ、誕生日が終業式なんだよ今年は」

 だから式が終わったらお誕生日パーティーでもやろうか、とみんなとは話をしているんだけれど、肝心の主賓が死んじゃったら元も子もない。

「勾玉は出来そうなのかな?」

「はい、城見くんが夜なべして頑張ってくれてます」

吸血鬼もどきを人間に戻すという勾玉。それに足りない材料が見つかったらしいので、完成すれば多分未広ちゃんは助かるって。今はそれにすがるしかない。結局私は何もできなかったんだけどね。

「ところで榛ちゃん」

「はい」

「城見くんを掴まえるの?」

 未広ちゃんを助けてくれる勾玉を作っている研究所の所長。彼は榛ちゃんの同級生らしい。そして、榛ちゃんのことが好きらしい。そしてデートに誘ってきたらしい。

 ほんのりと頬を染めて榛ちゃん先生はにこりと笑う。

「いえ、掴まるのはわたしですから」

 眩しい。菜穂子とは別のベクトルで眩しかった。

「ああいいなあ。私にもそう言う人現れてくれないかなあ」

「未広くん」

「それは色々とダメ」

「もし教師と生徒じゃなかったら?」

「それでも。恋人っていうイメージじゃないもん」

 未広ちゃんはなんというか、ソウルフレンド? みたいな感じ。腹を割って話せる関係だから。何か悩みがあったら見つけてあげて、解決するために動いてくれる。

「お似合いだと思いますけどねえ」

 榛ちゃんに反論しようと思ったら、コートのポケットに入れているスマホが震えた。取り出して画面を見ると『春日井未広』と表示された。噂の未広ちゃんからの着信だった。

「噂をすればですね」

「朝からなんだろうね」

 こんな朝に、というのもそうだけどメッセージじゃなくて電話っていうのも珍しい。画面で指をスライドさせて応答する。

「もしもし未広ちゃんおはよー。どしたの?」

『……今日休みます』

 それだけ言って電話はプツッと切れた。ちょっと待ってと聞き返すまでもない早業に、私は思わずその場で立ち止まってしまった。

「えー……」

「未広くんどうしたんですか?」

「お休みだって」

「風邪?」

「いやわかんないんだよそれが」

 首を傾げる榛ちゃんに、私はそれ以上に大きく首を傾げる。理由を聞くまでもなく切られちゃったものだから、担任と副担任は置いてきぼりだ。

「東金先生みたいにインフルとか」

「インフルだったら電話出来ないからね」

 あの時は本当に救急車でも呼ぼうかと思った。実際に病院行ったときに『何で救急車呼ばないんですか』ってマジで医療スタッフに怒られたくらいだった。

「疲れちゃったかな、未広ちゃん」

「かもですね」

 何だかんだ気を張っているのはわかるし、平静なようでそうでないことはわかってる。私に言ってくれなかったのは納得してないけど、未広ちゃんなりに色々と悩んでるってことはわかる。だからこそっていうのはわかってるんだけどね。

「せっかく勾玉が出来上がるっていうのに」

 隣を歩く榛ちゃんは白い息を吐きながら、そうぼやいていた。

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