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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
最期の冬の話
169/226

数学には必ず答えがある 4

     4


「ほんと苦手なんですね、この山」

「金縛りにあうから」

 僕が顔をしかめていたからか、若干身体が震えていたからか、翠ちゃんが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「たしかになんか変な術がかかってるのはわかる」

 美濃部さん自身は平気そうだけれど、何かしら感じたのか、怪訝そうな顔をしながら僕たちを先導していく。

「結界っていうほどじゃないけれど、人間が立ち入ると何か悪さするようなやつだね」

「だから僕と美菜ちゃんはおかしくなったんだね」

「逆に吸血鬼の血が混ざってれば大丈夫ってこと」

 苦手意識で身体が反応しているだけで、他に身体の不調がないところを見ると、美濃部さんの言う通りらしい。

「ちなみに吸血鬼の魔法ってどんなのがあるの?」

「記憶魔法と、勉強すれば他に魔法を使えるみたい。人を気絶させる魔法とかあったんだけど、物騒だから覚えなかったんだ」

 覚えなくてよかったと思う。裏美濃部さんとか容赦なく使ってきそうだし。

さらに奥まで進んでいくと、例のほこらにたどり着いた。辺りには勾玉の残骸らしき物がたくさん落ちていた。なんで残骸って言うのかといえば、その全てが黒っぽく色褪せていたからだ。

「なんかたくさん落ちてるね」

「この勾玉にヨモギグラスさんが入ってれば万事解決なんですけど」

「大元にしか入れないなんて意地悪なことするなあ、高津のおば……お姉さんは」

「総裁に伝えれば弓香も意地悪言わなくなりますかね」

「こら」

 秒でやられそう。

「でも、大元のやつが置いてあった近くのものだからレモングラス成分配合、っていう可能性もあるし採取採取っと」

 えい掴まえた、とまるでセミの抜け殻を拾う子供の様に次々と勾玉を摘んで鞄へと入れていく美濃部さん。もし勾玉が落ちてたら拾ってきて、っていうのも確かに城見先生からの指令ではあるから良いんだけど。

「あとはヨモギグラス……って、このほこら、いかにも怪しいです」

 翠ちゃんはほこらを見つめながら、訝しげに言った。改めて見てみると、そんなに大きなほこらではなくて、お供えものもそんなにたくさん入らないようなこじんまりとしたものだった。前は手前の台座に勾玉が置いてあったっけ。

 じーっと見つめ続けていた翠ちゃんは、やがて視線を地面の方に移した。

「あ、そこなんか埋まってます」

 台座のそのまた手前の地面。一部分だけ土の色が違っていたのに翠ちゃんは気がついたらしい。土や石ころや砂を払ってみると、何やらエンジ色の箱が出てきた。

「ビンゴです」

「この箱、いかにも何か入ってますっていう感じだ」

 早速箱を開けて見ようと蓋に手をかけてみると。

「びくともしない」

 接着剤でもつけられてるか溶接されてるのか、ってくらいにうんともすんとも言わなかった。力任せにしてみても、少しずらすように捻ってみても。

 そんな僕の努力を見届けた美濃部さんは、思いついたように言った。

「これ、開けるには印影が必要そうだね」

 箱の上には何か紙が張ってあった。砂を払うために手のひらで触ってみると、とてもザラザラとしていた。古いのかしわくちゃになっていたそれをよく見てみると、何も書いていなかった。

「ここに何かハンコを押せってこと?」

「うん。多分鍵の魔法がかけられてる。正しい印影なら開くしくみになってると思う」

 吸血鬼の学校の魔法授業で習ったことがある、比較的難易度の低いものだと美濃部さんはいう。

「印なんてこのデジタル時代に……まったく草くらいもぎらせてくださいって言うんですよ」

 翠ちゃんはそう嘆いていたが、これを突破しないとどうしようもない。とりあえず僕たちが持っているハンコを押してみたけれど、箱はけれど日も暮れてきたので、作戦会議は明日にすることとした。

「送っていかなくて大丈夫?」

「だからわたしは襲われたって大丈夫ですって」

「そうそう、私たちなら倍返しにしてあげるから」

 大事にはしないようにね、と吸血鬼2人の背中に声をかけたのだった。

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