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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
16/226

その人に、もう一度会いたいと思いますか? 1

     1


「あれ、令奈はどうした?」

「先に学校行くって」

 令奈が先に登校してしまったのは、彼女の16歳の誕生日のことだった。LINEで「今日は先に行くよ」って連絡があった。

「新聞の入稿が遅れてたりするのか」

「いいや、それだったら僕も慌ててるって」

 それもそうか、と隣を歩いていた栄恵は呟いた。一緒に校門へと足を進める。高校生になってから、いつも令奈が僕と姉さんを迎えに来て一緒に登校するというのがルーティンだったので、珍しい。まあ、姉さんが卒業してからは2人きりだったんだけど。

 校門にたどり着くと、何やら人だかりができていた。校門には黄色いロープが張られていて、校舎への道のりを塞いでいる。

「なんだなんだ、休校か?」

 先に着いていた博人が人波の中で背伸びをしてのぞき込んでいるけれど、全容はつかめないらしい。

「おはよう博人、どうしたのこれ」

「おっす未広、わからない。俺が来た時はすでにキープアウト」

 中を覗き込むと、警察やら先生やらが大声を上げながらあたふたと校内を走り回っているようだった。昨日の夜降って積もった雪を踏み締める音が絶えず聞こえる。

「……って警察?」

「何があったんだいったい」

 警察が出てくるくらいだから、大きな事件か事故があったらしい。生徒会副会長の栄恵は他の生徒会メンバーに連絡を取ろうとスマホを取り出すと、

「あ、会長からだ」

 ちょうど生徒会長からLINEが入ったらしい。

「生徒を体育館に誘導してほしい、と」

 了解、と言ったニュアンスのスタンプを送り返した後、栄恵は生徒たちの人だかりへと突っ込んで、

「生徒会からです! 生徒の皆さんは体育館側の裏門から体育館へと行ってください! 未広たちも落ち着いたら体育館へ行くんだぞ!」

 そのまま人並みへと呑まれて行った。

「何の事件だろうね」

「んー、化学部が爆薬でも抱えてたか」

「一面スクープものだね」

「やったじゃん未広お手柄」

「僕が見つけたわけじゃないでしょ」

 でも間違いなく今週号のネタは決まったなあ、とか冗談を言いつつ、もう少し様子を伺ってみる。相変わらずワタワタしているだけで何が起きているかわからない。

 体育館とは逆の裏門から入れないかな、とかふと思いついて足を進めてみたけれど、もちろん封鎖されていた。こっちは警備が薄いから入れるといえば入れそうだけれど、大人にマジ切れされそうだからやめておく。

「こらー、新聞部部長! それ以上入っちゃだめだよ! おとなしく体育館行きなさい!」

 ……その前に生徒会会計にキレられたので、おとなしく体育館に行くことにした。

「栄恵だって栄恵じゃなくたって許さないから諦めろって」

 博人に促されて大人しく体育館に行こうとした時だった。ふと、校門の向こうに赤色を見かけた。良く見ると、白く積もった雪が一部分だけ赤く染まっていた。一瞬で大体の事情を察して、思わず僕は胸前で手を合わせておいた。

 だから警察か。

 自死を選ぶまでには本人なりの考えや葛藤があるんだろうけど、本当にその選択をしてどうするんだよ、と思う。それも学校で。やるせない気持ちになって、トボトボと体育館の方へと歩く。途中で博人に肩を叩かれて励まされた。

 そういえば、令奈はもう体育館に行ってるんだろうか。早く出たはずだから、きっとそうだろう。人が生まれた日に、誰かが死ぬ。令奈にとっては印象に残りそうな誕生日になりそうだ。

 とりあえず「お誕生日おめでとう」からでいいかな、うん。本当はうちに迎えに来たときに姉さんと一緒にそれを言おうと待っていたんだけど。まあ今日中に言えればいいし、プレゼントはどっちにしろ家で姉さんと一緒に渡す予定だったし。姉さんも「今日は授業サボって早く帰って来て令奈ちゃんのお祝いするからね!」って意気込んでたし。

 なんてことを考えながら正門まで歩いてくると、あっ、と誰かが短い悲鳴を上げた。校門の周辺が一層騒がしくなった。道を開けろ、といろんな方向から命令口調で声が挙がった。

 どうやら運び出されるらしい。ブルーシートが張り巡らされて、誰だかはわからないようにされている。はずだったんだけど。

 隙間から見えてしまった、その担架が。そして、そこから腕が滑り落ちた。腕には血がまとわり付いていて、そして手首には、見覚えのあるブレスレットが付いていた。


 ……僕が、去年に令奈にプレゼントした、ブレスレットだった。


 その後の僕の記憶は鮮明ではない。

 ただ、僕が大好きだった人の名前を何度も呼んでいたのだけは、脳裏に焼き付いて離れない。

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