水も滴るいい女になってもらうよ 3
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「吸血鬼……牧穂さんが?」
僕が初対面の時にそうしたように、栄恵と美菜ちゃんは牧穂さんの爆弾発言にそう訊き返すことがやっとだった。確認するように僕の顔を見るんだけど、ただ頷くことしかできなかった。
「人間の身体をしていますが、これでも主に人間の血液を糧として生きるものです」
ポケットから血液パックを取り出して正体を明かしていた牧穂さんだけど、ちょっと引いたぞ2人。
「これトマトジュースとかではなくて」
「はい、輸血の血液を拝借しています」
なんかデジャヴを見ているようだった。
「栄恵、最初に言っておくけど、美濃部さんを襲ったのは牧穂さんじゃないよ」
「どうしてそう言えるんだ」
「牧穂さんが無差別に血を吸うような人じゃないから」
「おそらく別の吸血鬼でしょう。校内のどこかに潜んでいるのかもしれません」
それを探すのも私の仕事です、と付け加える。僕を襲う可能性がある吸血鬼とその吸血鬼が同じ輩なのかはわからないけど。でも仮に吸血鬼がもう一人増えるのは考えたくもない。
「先ほど説明したとおりです。私は誰が吸血鬼なのかわかりません。私なりに取材の合間で校内を調べてみたりはしたんですけど、皆目見当がつきません」
「でも、わからなくても、牧穂先輩は、未広先輩を助けてくれるってことですよね?」
「はい」
ずっと黙っていた美菜ちゃんが口を開くと、牧穂さんは彼女をじっと見据えて断言した。
「私はそのために未広さんのそばにいます。それを理解していただければ」
美菜ちゃんの眉が下がった。
「わたしは新聞部です。栄恵先輩だって生徒会長ですし、情報を集めることだったら百人力です。それに、吸血鬼のことはうちの部長が公式に受けた案件です。だったら新聞部総出で解決するってのが筋ってものです」
いつも頼もしいんだけど、今日は一段と美菜ちゃんが頼もしく見えた。
「わたしたちにもできることがあれば、お手伝いさせてください」
「どうして黙ってたんですか」
帰り道の美菜ちゃんは大変不服そうだった。
「吸血鬼だなんて突飛なこと、そう簡単に言えるわけなかったから」
そう簡単に人に話せる
「それに、転校生と一緒に住んでるだなんて言ったら美菜ちゃん怒るでしょ」
「別にそんなことで怒らないですって」
いや今怒ってるじゃない十分。言葉がとげとげしい。要らぬ誤解を与えて戦いたくはないもん。
「……言ってくれたっていいじゃないですか」
明らかに不満を隠そうとしない美菜ちゃんは、そのまま続ける。
「先輩がわたしを心配してくれて、ってことはわかりますし素直に感謝しますけど、わたしだって新聞部の部員です。情報収集能力や秘密主義には自信があります。というか、未広先輩に鍛えられました。だから、わたしにだって協力する権利はありますし、部長の危機なら協力する義務があります」
そしてもう一度、僕の目を見据えて言った。
「未広先輩の血はわたしたちが守りますから。安心してください」
この後輩は、やっぱり本当に頼もしい。





