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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
四季の小話
143/226

その想いが親友を超えてしまう日が来るかもしれない

「やっぱり、呼び方が違うと思うんだけど」

「気のせいだと思うよ」

 親友からの2度目の質問に、私は全く同じ答えを返した。さすが、中学からの付き合いだ。そういうところは目ざとい。

 私は素知らぬふりをして、コッペパンをちぎって食べる。やっぱりバタピーは美味しい。そんな様子を生温かい視線で見つめながら、美菜はストローに口をつけてコーヒー牛乳を飲む。

「だって椎香、今まで『春日井先輩』って呼んでたのに、今日会ったら『未広先輩』って」

「そう呼びたくなる気分の時だってあるんだよ」

「あ、認めた」

「呼び方くらいでそう詰め寄らないでよ」

「だって……」

 恋する乙女は結構面倒くさいものだ。思ったところを気にするものだ。だったら新聞部の後輩がそう呼んでいるのも気にしているのだろうか。恋する乙女になったばっかりだから、そのあたりはこれからわかるんだろうけど。

「呼び方変えたからって先輩取られちゃう! とでも言うわけ?」

「そうじゃないけど……でも、なんか不安にはなりますというか」

 まあ、気分じゃなくて意図して『未広先輩』と呼んでいるのは内緒の話だ。なんてことがバレた日には親友と大喧嘩になりそうだから絶対に言わない。大喧嘩というか修羅場だ。

「大丈夫だって、そんなことないから」

 私は念押しして、残りのコッペパンを食べ切った。


 未広先輩が私のところにやってきたのは、生徒会選挙の少し前のことだった。わざわざ後輩の親友のクラスにやってきて何を言い出すかと思えば、


『生徒会長選挙に立候補してくれないかな』


 というものだから、ぶっちゃけその場はビックリしてしまった。

 しかし話しているうちに、未広先輩自体も板挟みにあっていることを知って、少し可哀そうになり、でも、そういうことを引き受けてしまうのも彼らしいなあ、っていうのがツボにはまったらしく、しばらく笑ってしまった。決して侮辱の意味とかじゃないから、美菜をだしにして誤魔化しておいたけど。

 しかししかし、自分自身も生徒会長に興味を持っていたから渡りに船ではあった。帰宅部2年目の今日この頃、そろそろ何かやりたいと思っていたところで舞い込んできた生徒会長選挙。ちょうどいいと言えばそうだった。

 生徒会長と生徒会に近い春日井先輩に近づけば、当選の確率も上がるし、などと一瞬打算的なことを考えたけれど、結局は奥底にあった意思だった。


『私出ますよ。生徒会長選挙』

 あの時の未広先輩の顔、すごく呆けていた。そりゃそうだ、呆れかえって先輩を迎えた後輩が、その呆れかえるようなお願いを引き受けたんだから。先輩の熱意に負けた、なんて誤魔化したけれど、それも正直少しはある。恥を恐れず後輩のクラスまでやってくるのだもの。面白い。


『さんづけだとなんだか堅苦しいので、私のことは“影森ちゃん”とお呼びください』

 あとは、余計なことを付け加えた。色々考えて、名字プラス『ちゃん』にしてもらった。名前で呼んでもらうのは、さすがに恥ずかしいから。


 生徒会長になる前にそんなことがあったなんてことは、口が裂けても美菜には言えない。


 その時私の心にどんな思いが芽生えて初めていたかだなんて、選挙活動を通して未広先輩と一緒にいて、どんな思いが温泉のように湧いてきたかだなんて、


 美菜には言えない。


 その後もすっきりしない顔で愚痴を吐く美菜だったけど、昼休みの終わりに生徒会長就任祝いでジュースをおごってもらった。何だかんだ、私も美菜もお互いを好きなのには変わりないらしい。


 美菜は未広先輩のことが好きなのも、未広先輩が美菜を好きなのも、関係者には周知の事実だ。


 親友として私は、全力でその恋を応援する。


 ……はずだったんだけど。


 その想いが親友を超えてしまう日が来るかもしれないと思うと、少し私は怖かった。

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