表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
13/226

水も滴るいい女になってもらうよ 1

     1


「いらっしゃいませー、って栄恵先輩ですか」

「お疲れ美菜」

「さっきまで未広先輩と牧穂先輩がいたんですよ。入れ違いでしたね」

「そうか」

 合点が行かないような顔をして、栄恵先輩はさっきまで2人が座っていたテーブルに腰掛けて、わたしがほうじ茶を置くよりも先に注文をした。

「ほうじ茶クリームあんみつで」

「はーい」

 マスターに注文を伝えると、不意に栄恵先輩が訊いてきた。

「最近おかしいと思わないか? 未広」

 わたしは黙って頷いて見せる。その疑問はわたしも感じていたことだった。

「妙に2人でいることが多いというか」

「そうなんだよ」

「転校生の案内役って千佳子先生から指名されているにしても、おかしいです」

 あんみつより先に運ばれてきたほうじ茶を一口飲んで、栄恵先輩は顔をしかめた。って、それわたしのお仕事。って、あれ?

 ほうじ茶はテーブルにもう一つあった。運んできたあやめさんは微笑を浮かべて、ひらりとスカートを翻してカウンターへと消えていった。ガールズトークしていいよ、っていう合図らしいので、わたしは頭を下げて栄恵先輩の前に座る。

「このまま未広を取られてもいいと思うか」

「さすがに別にそこまで牧穂先輩は」

「でも心配だろう」

 畳みかけられて思わず黙ってしまった。ほうじ茶の水面に目を落とすと、すこししょんぼりとした自分の眉が映る。

 だいたい、未広先輩を取られたって別に。別に……

 その後の言葉が続かないあたり、わたしの心は未広先輩になびいているらしい。

「今は君の方が一緒にいる時間は長い。ボクの好敵手としては申し分ないと思っているんだけど」

 改めて明け透けに言われると何も言い返せない。この先輩は応援しているんだかけん制しているんだかわからない。未広先輩が好きなことだけは伝わってくるけど。

「それに、ボク以上に心配している」

「そりゃ、2人でいることが多くなって心配ですし少し妬いてます。けれど、牧穂さんは恋愛感情とかを持っているわけじゃないと思います」

 イチャイチャしたりベタベタしているわけじゃないけれど、どこか距離が近い。どこか一緒にいる機会が多い。それがわたしの心をざわつかせているのは事実だった。

「男女とはわからない。一緒にいる時間が長ければ、もしかしたら好き合ってしまうかもしれない。美菜みたいに」

「だから、わたしは別に」

「可愛い。ボクが男の子だったら絶対掴まえるんだけど」

「何言ってるんですかもう、甘いものの食べ過ぎです」

 からかうように笑う栄恵先輩はどこか上機嫌だ。褒められて嬉しくないわけじゃないけれど、照れる。

「はーい、お待たせいたしました」

 そんなわたしたちの前に、ほうじ茶クリームあんみつと抹茶ミルクタピオカが置かれる。

「あれ、あやめさんわたし頼んでない」

「甘いものも必要でしょ?」

 しれっと自分の分のお汁粉も机に置いて、わたしの隣に腰掛ける。ガールズトークを聞いているだけでは満足できなかったみたい。でも、あやめさんはこういうところで本当に優しい。

「多分恋愛事情は抜きにしても、未広ちゃんと牧穂ちゃんは何かを隠してる。でも好きで秘密にしてるわけじゃないし、2人とも悪い子じゃないから、しっかりとするところはしっかりすると思うよ」

「そんなの」

「わかってるわよねえ、2人なら」

 あやめさんは笑みを絶やさない。未広先輩のことを心の底では信じているからこそ、笑っていられるんだろうと思う。わたしたちだって、未広先輩を信じていないわけじゃない。あやめさんの言う通り、秘密にする理由があるのかもしれない。

「まあ、吐いたら吐いたで私も怒りますけどね。短い付き合いじゃないんだから」

 頬を膨らませながら、みょーんとお汁粉のお餅を伸ばすあやめさん。

「それに牧穂ちゃんも、嘘をつきたくてついている人じゃないと思うなあ」

 これにはわたしも栄恵先輩も思わずうなずく。転校して来たばっかりで付き合いは短いし「取られてもいいのか」なんて物騒なことを言っているけど、新聞部で一緒に過ごして、バイトをしているわたしのところに遊びに来る牧穂先輩は、無垢な人だと思っている。

 そういう思いがせめぎ合って黙り込んでしまったわたしたちに、あっけらかんと提案した。 

「それでもそんなに気になるなら、未広ちゃんのおうちに行ってみれば?」

 わたしたちは2人してポカーンとしてしまった。顔文字のあの表情が似合うくらいに。

「ほら、ちょっと家庭訪問、的な感じで。私もちょっと気になってるのよね~。だから代わりに聴いてきてもらえれば」

 わたしたちは人柱ですか。

「それじゃあ一緒に行ってみるか」

「わたしも行くんですか」

「美菜も気になるだろう?」

 そんな質問の仕方をされると、首を横に振ることはできない。

「でも未広先輩変なところで鋭いから、ばれちゃいませんか?」

「大丈夫。今策は練った」

 栄恵先輩はわたしの方に向き直って意味深に笑った。

「ちょっと美菜には水も滴るいい女になってもらうよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ