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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
秋の話
114/226

それが私の後悔 1

     1


「お疲れ様。ありがとうねみやびちゃん」

「どうもです。美菜ちゃん、バッチリ?」

「バッチリです」

「これが一面に載るっていうのもなんか気恥ずかしいなあ」

「せっかくのグラビアです、おとなしく恥ずかしがってください」

 デジカメ片手の美菜ちゃんは小さく笑って、いい写真が取れたことを喜んでいた。

 今年度の生徒会活動も秋の生徒会選挙で改選を迎えるので新聞部で『生徒会執行部お疲れ様号』という感じの生徒会メンバーのインタビュー記事を来週号で発行することになった。会長の栄恵、副会長の下平琢しもひら たくくんは終わったので、今日は副会長のみやびちゃんの番だった。

「というかこれ、わたしまでやってよかったんですか。来年度も生徒会にいると思いますし」

「現執行部の区切りだから、全然問題ないよ。次の生徒会長候補って書いておくし」

「それはやめてください。私は副会長になるんですから」

「みやびさん、どうしてそんなに会長が嫌なんですか?」

「副会長が私にはちょうどいいんです。会長ほど重くなくて、でも、責任感はある仕事だからいいんですよー、副会長は」

 聞かれていなくとも副会長の魅力をスラスラと口にするあたり、これは誰がどう説得しても次期副会長になる流れだった。

「美菜ちゃんも来年生徒会へいかが?」

「今の流れだとそうなってしまうかもですね」

「どういうこと?」

「ああ、美菜ちゃんが栄恵の知り合いだから引き込まれるかもってこと」

「なるほど」

 適当にごまかしておいたら、みやびちゃんは納得したようだ。まさか吸血鬼になって伝統を受け継ぐために生徒会に引き込まれるだなんて言えるわけがない。

「美菜ちゃん、絶対生徒会長とか良いと思うんですけど。全力で補佐しちゃう!」

「わたしは新聞部の部長ですし、料理部にもいますし、これ以上生徒会を掛け持ちするときっとパニックになるのでお断りします」

「そうかー。気が向いたらいつでもわたしに言ってね」

 引いたように見えて引き下がっていないみやびちゃん。

 ただでさえ文化祭のときは生徒会と文実の仕事を掛け持ちしてて大変だったし、これが平時となると美菜ちゃんが本気でキレそうだし、美濃部さんを根に持ってるくらいだから自分から進んで生徒会に入ることはない気がする。

「ところで、弓香先輩はどこ行っちゃったんですかねえ」

「弓道部じゃないんですか?」

「いや、今日は部活にも行ってないって。新聞部の後輩さんから聞いたよ」

 鮫ちゃんが言うんだったら間違いないだろう。部活にも生徒会にもいないのは珍しい。美濃部さんの分も今日取材してしまいたかったんだけれど。

「わたしを襲う準備でもしてるんですかね」

「物騒なこと言わない」

 ぼそっと呟いた美菜ちゃんの言葉が妙に響く。僕たちの目の届かない範囲にいると、今の美濃部さん(多分裏美濃部さんだけど)は何をするかわからない。

「今日もお守りします、お嬢様」

「ありがとうございます」

 僕たちの会話を、はてなを浮かべながら眺めていたみやびちゃんにお礼を言いつつ、僕たちは帰路に就いた。

 まだ新聞の締め日までには余裕があるので、美濃部さんの取材は明日に回すことにした。


「弓香ならお休みだよー」

 翌日美濃部さんのクラスを訪れると、僕を見つけた北砂さんがパタパタと寄ってきてそう言った。北砂さんは美濃部さんのクラスメイトなのだ。

「あれ、どうしたの」

「うーん、体調悪いって」

「そっか」

 昨日いなかったのも具合が悪かったからだったのだろうか。

「質の悪い風邪が流行ってるらしいから、春日井くんもしっかり食べて元気でね」

「うん。風邪ひいたら北砂さんにおかゆでも作ってもらおう」

「いいけど、私じゃなくて他に作ってくれる人がいると思うよー?」

 ニヤニヤとする北砂さんから目を逸らす。誰のことを言っているのかわかってしまうのが憎くて照れる。

「まあ、いざとなったらお任せあれ。料理部みんなで美味しいやつ作るから」

 それは元気になりそうなものが出来上がりそうだ。

「それはそうと。春日井くん、弓香のお見舞いに行ってみる?」

 いきなり何を言い出すかと思えば、美濃部さんはノートの切れ端に何かを書いて僕に示してみせた。

「はいこれ地図」

「妙に気前がいい」

「タダとは言ってないよ」

「いつ料理部に行けばいい?」

「わかってるねえ」

 にっこりと笑って、北砂さんは僕に美濃部さん宅の地図を渡してくれた。


「一緒に来てよかったの」

「バイトもありませんし」

 美濃部さんの家にお見舞いに行くと言ったら、美菜ちゃんがひょっこりとついてきた。襲われかけた相手のところなのに、特に気にせずに僕の横を歩く。

「何かあったら未広先輩の後ろに隠れていけにえにします」

「頼りにされてると思っていいのかなそれは」

 とにかく美菜ちゃんの盾になれということなので、覚悟はしておくことにした。

「そう言えば今日は翠先輩もお休みでしたね」

「せっかくお弁当2つ作ってきてもらったのに」

「おかげでわたしが恩恵を受けたから良かったんですけど」

 約束通り姉さんに翠ちゃんと翠さんのお弁当を頼んだら、彼女も今日は欠席だった。LINEによると風邪らしい。おかげでお弁当が余ってしまったので美菜ちゃんに食べてもらった。幸せそうな顔が見られて僕も恩恵を受けたのは内緒の話。

「誰かのお見舞いに行くなんて久しぶりです」

「なんか僕は覚えがある気がする」

「誰のですか」

「女子」

「だから誰のですか」

 口を滑らす僕に追及のまなざしを向ける美菜ちゃんを交わしつつ、地図通りに進んでいくと、一軒のアパートを見つけた。

「ここみたいですね」

「美濃部さんって一人暮らしなのかな」

「まあ、吸血鬼ですし。親元にいるってわけにもいかないでしょうし」

 親元に死んだ娘が戻ったら両親もびっくりだ。

「オートロックじゃないんですね」

「美濃部さんそう言うの気にしなさそう」

「褒めてるのかけなしてるのかどっちなんですか」

 ともあれオートロックじゃないアパートなので、目的の部屋のドアにたどり着いて、呼び鈴を鳴らす。返事はない。

「ごめんください、美濃部さん」

「美濃部先輩、お見舞いですよ」

 僕たちが続けざまに呼びかけるけれど、相変わらず返事はない。

「寝てるのかな」

「うーん、本当に具合悪いのかもしれないですね」

「疑ってたの」

「だってですね」

 気持ちはわからなくもないけれど。

 そのままドアの向こうから人が出てくる様子がなくて立ち尽くしていると、隣の部屋のドアノブが回る音が聴こえた。

「あっ、すみませんうるさかったですか?」

 美菜ちゃんがぺこりと頭を下げて謝った後、ポカンとした口調で呟いた。

「翠先輩?」

 美菜ちゃんの言葉に思わずその人を見ると、

「あれ、お二人ともどうしたんですか」

 そこにいたのは薄ピンク色のパジャマを着た翠ちゃんで、僕もポカンとしてしまった。その言葉はそっくりオウム返ししたい。

「美濃部さんのお見舞いに。今日休んだって聞いたから」

「多分、今弓香は病院にいるか買い出しかどちらかです」

「妙にお詳しい」

「一応隣人ですから」

「ここ、翠ちゃんの家なの?」

「家ではないんですけど、家みたいなものです」

 断定を避けた言い方で翠ちゃんは言って、咳こんだ。

「大丈夫ですか」

「質の悪い風邪に罹ったらしくてダメなんですよ実は」

 無理くり笑顔をつくる顔色の悪い翠ちゃんを放っておけるわけもなく、美濃部さんのお見舞いをするはずが、翠ちゃんのお見舞いをすることになったのだった。

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