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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
11/226

すっかり普通の女子高生ですね 2

     2


「通常私たちの世界では、人間を生きたまま吸血鬼にすることはご法度です。死んでいる人間の血を吸って吸血鬼にする。それが手筈なんですが」


 私は、生きたまま吸血鬼になりました。いや、死ぬ前に吸血鬼になった、って言った方がいいですね。


 牧穂さんはそう言って、ほうじ茶を一口飲んだ。


「私は死ぬ前に血を吸われなければ、今ここに存在すらできていません」


「つまり、人間は血を吸われると吸血鬼になると」


「それには少しだけ語弊があります。吸血鬼が人間をそうするには、自分の血を分け与える必要があります」


「じゃあ、血を吸われなければ、血を与えられなければ、吸血鬼にはならないんですね」


「私が最初に未広さんの血を吸っただけでは、吸血鬼は成立しません。あれはただの栄養補給です」


 俗にいう眷属をつくる、というものなんだろうか。


「眷属も語弊があります。別に吸血鬼にしてもらった吸血鬼に従属するわけでもありません。私も血を吸った吸血鬼の顔を知らないくらいですから」


 誰にそうされたのかわからない、っていうのは少し怖いかもしれない。けれど、知らない方がいいのかもしれない。


「でも、死にかけの私の血を吸って、血を与えて、吸血鬼として生かしてくれたんですから、恩人と言えばそうなります」


 顔も名前も知らないけれど、自分を死後の世界で生きさせてくれた存在。どんな感覚なのかはわからないけれど、救われた気分になるんだろうか。


「事実は事実として受け入れました。というか、受け入れるしかなかったんです。そうなってよかったか、っていう質問にははっきり答えられないですけど」


 結果、生き永らえていることは出来ているんですから。肯定とも否定とも取れない表情で牧穂さんはつぶやく。


「でもとどのつまりは、死んだ人の行きつく先の一つ、と考えることにしました。私は天国でも地獄でもなくて、現世で生き永らえられることを赦してもらえた。つまりそうなんです」


 つまり、を2回繰り返すくらいには、牧穂さんも真相はよくわかっていないらしく「そういうこと」として認識するしかないということなんだろう。


 ちょっと真面目な話になっちゃいましたね、と牧穂さんはあえて相好を崩してほうじ茶をもう一杯飲んだ。僕はカップの水面を眺めながら、ボーっと考えていた。


 ——死んだ人ってどこに行くんだろう。


 僕がずっと考えていたこと。この世から出ていった人は、どこへ行きつくんだろう。その答えの一つが牧穂さんであって、吸血鬼と云う存在だ。人の血を好み、自分の血を与えて仲間を増やしていく。牧穂さんが進んでそれをやっているようには思えないけれど、僕を狙っている吸血鬼がいるくらいだ。きっとこの世界ではそれが起きているんだろう。


「とにかく、生き人を吸血鬼にするのはダメなものです。もちろん、死んだからいいっていうわけではないですけど」


「でもそれだったら僕は殺されてまで吸血鬼にされる可能性もあると」


「それもダメです。吸血鬼にするために人を殺める行為はさらに道義的に反するものです」


 もちろん、生きたままの未広さんを狙っているので、道義的にその吸血鬼のモラルは保証されませんけど。


「だからこそ私がいるんです。だから、安心してくださいね」


 牧穂さんは僕を安心させるためか、やわらかな笑みを浮かべながら今度はお茶菓子の最中に手を伸ばした。


「牧穂さん」


「何ですか?」


「……最近、自殺した人間が吸血鬼になったとかいう話、聴いたことありますか?」


「うーん、ケースはありますが、最近では聞いたことありませんね」


 どうして僕は期待してしまっているのだろうか。いや、忘れてください、と慌てて胸の前で手を振って、やっと僕はほうじ茶を飲んだ。少し冷めたそれは、僕の荒れかけている胃を沈めてくれる。


「未広さん」


「何ですか」


「私は、誰が吸血鬼っていうのは私にはわからないって言いました。だけど、私がわからないだけです。吸血鬼になっているかもしれない人は、幾らだっています」


 僕のことを深く牧穂さんに話したことはない。でも、まるでその瞳の奥に真実を携えているように、牧穂さんは僕の瞳を掴みながら、そう言った。


「それにそうじゃなければ、こうして男子高校生と同棲まがいのことをするなんて稀有な経験、できませんでしたし」


 言い方。同棲じゃなくて居候って言ってください。


「未広さんは気にするかもしれませんしさっきも言いましたが、襲わないでくださいね」


「……誰が襲いますか、誰が!」


 この吸血鬼のお姉さんは、真面目に語ってるのか僕で遊んでいるのかわからなかった。

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