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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
秋の話
100/226

今から、わたしのことを話します 4

     4


 さすがにショックだったらしく、栄恵はとぼとぼと部室を後にした。

「会長があんなに項垂れるの、初めて見ました」

「僕も」

 ちょっと考える時間をくれ、と言って栄恵は成城さんの話も途中に離脱してしまった。前生徒会長。懇意にしていたのは知っているし、僕も新聞部も散々お世話になった人だから、正直僕もびっくりしている。

「でも、吉岡先輩は恵まれていたと思います。一個下に美濃部先輩がいたから」

 そういう言い方はよくないんですけど、と成城さんはこぼす。まるで美濃部さんをかばうような言い方にも思えたけれど、事実を言っているまでだ。

「もし伝統が守られなければどうなるの?」

「わかりません。まだだれも破ったことがないので」

 けれど、このまま何も起こらなければ、美濃部さんはどうなってしまうのか。

「伝統を作った人が何か行動を起こすかもしれません」

「高津早代」

「あの人なら、何をするのも容易いと思いますから」

 名前を口にしただけで、成城さんは早代さんのことをそう評した。

「血、吸われたんですよね」

「それは僕にはこたえられない」

「わたしから言うんだったら大丈夫です」

「どうして知ってるの」

「幕張さんのおかげです」

 つながっていたのか。ていうか幕張さんなんで知ってるのか。

「というか、直属の上司です」

 この街にはほかにも吸血鬼がいるっていうのは知っていたけど、幕張さん、この学校に吸血鬼がいるなんて言ってなかったじゃないか。

「そういうところ、幕張さんらしい」

 成城さんはそう笑う。伝える必要がないから伝えなかったとか言いそうだ。

「栄恵のフォローは僕がしておくよ」

「お願いします。わたしは引き続き、美濃部さんに注視しておきます」

 というわけで今日はそろそろお開き。そろそろ昼休みも終わってしまう。

「それじゃあ」

 その続きを言いかけた成城さんは、ギュッと目をつぶった。

「——おう、昨日ぶりだな」

 そして見開いた時には、その口調が変わっていた。昨日美濃部さんを前にしていた成城さんのそれだった。

「あたしは昨日会ったあたしだ」

 これが二重人格の正体か。

「怖がらないんだな」

「吸血鬼は慣れてるから、悲しきかな」

「それは好都合だ」

「血は吸わないでね」

「大丈夫だ。もどきの血は吸わない。まあ、昨日言った通り気にはなるんだが」

 思わず首をガードする。その様子を見て、成城さんは盛大に笑う。そんな彼女を見て、もう少し話して見たくなった。

「授業サボっちゃおうか」

「へえ」

「なに」

「そういうこと言わないやつだと思ってたから」

 意外そうな目を向けてくる成城さんに、僕は笑って見せる。

「そのまま戻るわけにはいかないでしょ、成城さんも」


「まずは一つお詫びだ。ごめん」

 午後の授業の鐘が鳴って、成城さんは頭を下げてきた。

「謝らなくていいよ」

 意外と義理堅そうな性格の様だった。

「あいつの言い様があまりにもお粗末だったから、思わず出て来ちゃったんだ」

 あいつ、とは美濃部さんのことらしい。

「美濃部さんを説得しようとしてるの、えーと、大和撫子の方の成城さんは」

「お前がどういう風にあいつを見ているのかよーくわかった」

「しょうがないでしょ、そうなんだから」

「あたしは違うって?」

「そうは言ってないって」

「まあ、あたしはこんな性格だからな。みんなの前に出て行ったら『どうしたの成城さん!』ってなるのが目に見えてる」

「そんな成城さんも嫌いじゃないよ」

「そう言ってくれたのはお前が初めてだ」

 社交辞令どうも、とまんざらでもなさそうな表情を見せる成城さん。

「翠は美濃部弓香のことが心配なんだ」

「心配?」

「だったら手を焼いてやろうなんてしない」

 成城さんは手元に目を落として、呟いた。

「2人は知り合いなの?」

「知り合いというか、友達というか、親友だ」

「親友」

「だからこそ、翠は美濃部弓香を見捨てられない」

「君はどう思ってるの?」

「あたしだって、無下にしていいものとは思ってないさ」

 でも、と成城さんは少し寂しそうに言葉をこぼした。

「どうにもならないんだ」

 それは無念のようにも見えた。

「伝統だか電灯だか知らないけれど、見えないなんかに縛られるあいつは見たくない。今すぐにでも助け出してやりたい。でも、手がないんだ」

 成城さんは、首を振った。

「美濃部は城崎の血を吸えばそれで終わりだ。でも、あたしたちはそれをさせたくない。けれど、そうしたら美濃部がどうなるかわからない。どうすればいいんだろうな、あたしたちは」

 そう問われたから、僕は反射的に答えた。


「助ければいいと思う」


 僕が即答すると、

「自分のことも何とかできないのに、何言ってんだ」

 成城さんは、僕を咎めはしなかったけれど、期待のない声を上げた。

「成城さんのその顔見たら、協力したくなった」

 表の顔だろうが裏の顔だろうが、無念そうに顔を曇らせる成城さんを見たくはなかった。それに、美濃部さんをそのままにしておくわけにもいかないし。

「出来るんならやってみろ」

 成城さんはそう言って、踵を返す。

 途端に、授業の終わりの鐘が鳴った。さすがに2時間連続でサボりはよろしくないし、もう戻らなきゃだ。

「貴重な話ありがとう。送っていくよ」

「いい。暴漢が怖くて吸血鬼やってないから」

「そっか、血を吸っちゃえば簡単だもんね」

「それは皮肉か」

「ご名答」

「やっぱり面白いやつだな。気に入った。未広って呼ばせてもらう。あたしのことは『翠さん』って呼べ」

 よろしくな、と笑顔で肩を組んでくる。

「ちなみにあっちの翠のことは『翠ちゃん』って呼んだ方が区別つくだろう、そうしておけ」

 翠さんの言いつけを守ったら、翠ちゃんになぜか怒られた。けれど結局呼び名問題はそれで落ち着いた。

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