今から、わたしのことを話します 4
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さすがにショックだったらしく、栄恵はとぼとぼと部室を後にした。
「会長があんなに項垂れるの、初めて見ました」
「僕も」
ちょっと考える時間をくれ、と言って栄恵は成城さんの話も途中に離脱してしまった。前生徒会長。懇意にしていたのは知っているし、僕も新聞部も散々お世話になった人だから、正直僕もびっくりしている。
「でも、吉岡先輩は恵まれていたと思います。一個下に美濃部先輩がいたから」
そういう言い方はよくないんですけど、と成城さんはこぼす。まるで美濃部さんをかばうような言い方にも思えたけれど、事実を言っているまでだ。
「もし伝統が守られなければどうなるの?」
「わかりません。まだだれも破ったことがないので」
けれど、このまま何も起こらなければ、美濃部さんはどうなってしまうのか。
「伝統を作った人が何か行動を起こすかもしれません」
「高津早代」
「あの人なら、何をするのも容易いと思いますから」
名前を口にしただけで、成城さんは早代さんのことをそう評した。
「血、吸われたんですよね」
「それは僕にはこたえられない」
「わたしから言うんだったら大丈夫です」
「どうして知ってるの」
「幕張さんのおかげです」
つながっていたのか。ていうか幕張さんなんで知ってるのか。
「というか、直属の上司です」
この街にはほかにも吸血鬼がいるっていうのは知っていたけど、幕張さん、この学校に吸血鬼がいるなんて言ってなかったじゃないか。
「そういうところ、幕張さんらしい」
成城さんはそう笑う。伝える必要がないから伝えなかったとか言いそうだ。
「栄恵のフォローは僕がしておくよ」
「お願いします。わたしは引き続き、美濃部さんに注視しておきます」
というわけで今日はそろそろお開き。そろそろ昼休みも終わってしまう。
「それじゃあ」
その続きを言いかけた成城さんは、ギュッと目をつぶった。
「——おう、昨日ぶりだな」
そして見開いた時には、その口調が変わっていた。昨日美濃部さんを前にしていた成城さんのそれだった。
「あたしは昨日会ったあたしだ」
これが二重人格の正体か。
「怖がらないんだな」
「吸血鬼は慣れてるから、悲しきかな」
「それは好都合だ」
「血は吸わないでね」
「大丈夫だ。もどきの血は吸わない。まあ、昨日言った通り気にはなるんだが」
思わず首をガードする。その様子を見て、成城さんは盛大に笑う。そんな彼女を見て、もう少し話して見たくなった。
「授業サボっちゃおうか」
「へえ」
「なに」
「そういうこと言わないやつだと思ってたから」
意外そうな目を向けてくる成城さんに、僕は笑って見せる。
「そのまま戻るわけにはいかないでしょ、成城さんも」
「まずは一つお詫びだ。ごめん」
午後の授業の鐘が鳴って、成城さんは頭を下げてきた。
「謝らなくていいよ」
意外と義理堅そうな性格の様だった。
「あいつの言い様があまりにもお粗末だったから、思わず出て来ちゃったんだ」
あいつ、とは美濃部さんのことらしい。
「美濃部さんを説得しようとしてるの、えーと、大和撫子の方の成城さんは」
「お前がどういう風にあいつを見ているのかよーくわかった」
「しょうがないでしょ、そうなんだから」
「あたしは違うって?」
「そうは言ってないって」
「まあ、あたしはこんな性格だからな。みんなの前に出て行ったら『どうしたの成城さん!』ってなるのが目に見えてる」
「そんな成城さんも嫌いじゃないよ」
「そう言ってくれたのはお前が初めてだ」
社交辞令どうも、とまんざらでもなさそうな表情を見せる成城さん。
「翠は美濃部弓香のことが心配なんだ」
「心配?」
「だったら手を焼いてやろうなんてしない」
成城さんは手元に目を落として、呟いた。
「2人は知り合いなの?」
「知り合いというか、友達というか、親友だ」
「親友」
「だからこそ、翠は美濃部弓香を見捨てられない」
「君はどう思ってるの?」
「あたしだって、無下にしていいものとは思ってないさ」
でも、と成城さんは少し寂しそうに言葉をこぼした。
「どうにもならないんだ」
それは無念のようにも見えた。
「伝統だか電灯だか知らないけれど、見えないなんかに縛られるあいつは見たくない。今すぐにでも助け出してやりたい。でも、手がないんだ」
成城さんは、首を振った。
「美濃部は城崎の血を吸えばそれで終わりだ。でも、あたしたちはそれをさせたくない。けれど、そうしたら美濃部がどうなるかわからない。どうすればいいんだろうな、あたしたちは」
そう問われたから、僕は反射的に答えた。
「助ければいいと思う」
僕が即答すると、
「自分のことも何とかできないのに、何言ってんだ」
成城さんは、僕を咎めはしなかったけれど、期待のない声を上げた。
「成城さんのその顔見たら、協力したくなった」
表の顔だろうが裏の顔だろうが、無念そうに顔を曇らせる成城さんを見たくはなかった。それに、美濃部さんをそのままにしておくわけにもいかないし。
「出来るんならやってみろ」
成城さんはそう言って、踵を返す。
途端に、授業の終わりの鐘が鳴った。さすがに2時間連続でサボりはよろしくないし、もう戻らなきゃだ。
「貴重な話ありがとう。送っていくよ」
「いい。暴漢が怖くて吸血鬼やってないから」
「そっか、血を吸っちゃえば簡単だもんね」
「それは皮肉か」
「ご名答」
「やっぱり面白いやつだな。気に入った。未広って呼ばせてもらう。あたしのことは『翠さん』って呼べ」
よろしくな、と笑顔で肩を組んでくる。
「ちなみにあっちの翠のことは『翠ちゃん』って呼んだ方が区別つくだろう、そうしておけ」
翠さんの言いつけを守ったら、翠ちゃんになぜか怒られた。けれど結局呼び名問題はそれで落ち着いた。





