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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
冬の話
10/226

すっかり普通の女子高生ですね 1

 死んだ人にまた会えるなら。

 遺された人にとって、そう願うことは自然なことだと願いたい。

 まあ、それが出来ているんだったら、お盆もお墓参りもいらないけれど。

許されないからこそ、この世の常であり美徳であるのかもしれない。


 人は死んだあと、どこへ行くのかわからない。

遺された人はともかく、死んだ人もそれをわかっていないのかもしれない。


 でも、その答えがひとつだけ存在するとしたら?


 ただし、それはつまり。その人は吸血鬼として存在している、ってことなんですけれど。


     1


「未広!」

 ボーッとしていた僕は、栄恵の大きい声にハッとして現実に引き戻された。

「やっと気がついた」

 何度も声をかけていてくれてたらしい。呆けている僕を呆れ気味に見つつ、少し安心した顔を綻ばせた。

「ごめん栄恵、なんだっけ」

「随分と上の空だな」

「考え事してた」

「うどんが延びる」

 そう言いながら、栄恵はお昼ご飯が乗ったお盆をテーブルに載せて、僕の前の席に腰を下ろす。

「それに、ボクは未広が元気ないと心配だ」

 そして少し照れくさそうに僕を見つめて、そうこぼした。気難しく見られることもあるけれど、こうやって感情を素直に表現できるところは、栄恵の良いところだと思う。

「大丈夫だよ。ちょっとボーっとしてただけ」

 食事中だったというのに、完全に我を忘れていたらしい。栄恵の言う通り、うどんが汁を吸ってくたくたになっていた。

「そんな未広に大根をあげよう。今日の煮物も美味しそうだ」

 そう言って、お皿から大根の煮物をつまんで、うどんの器に入れてくれた。

「ありがとう。今日は日替わり?」

「デザートが抹茶プリンだったからね」

 メインディッシュじゃなくてデザートで選ぶあたり、栄恵らしい。ちなみに今日はぶり大根定食だ。学食のおばちゃんの自信作らしい。

「あ、抹茶プリンはあげないぞ」

「わかってるよ。栄恵から甘いものを取り上げるほど鬼じゃありません」

 抹茶プリンのおいしさよりもリスクが上回るから絶対にその選択肢はとらない。

「それじゃあ、いただきます」

 ちょっと考えに耽りたくて1人で学食に来たんだけど、栄恵も今日は学食だったらしく、結局いつもの感じになった。それはそれでいいんだけど。

 くたくたのうどんを少し食べ進めたところで、栄恵が不意に尋ねてきた。

「それにしてもどうしたんだ、考え込んで」

「令奈のことを思い出してた」

 嘘をついても仕方がないので、僕は正直にその名前を口にした。栄恵はぶりを掴もうとしていた箸を止めて、やがて箸をおいて遠い目を浮かべた。

「もうそろそろだったね」

「うん」

「君が考えに耽るのも仕方ないな」

 仕方ない、と言いながら栄恵の顔は晴れない。きっと栄恵も考えてしまっているのだろう。

「栄恵はまだ怒ってる?」

 今度は味噌汁を飲みながら栄恵は僕を見据えた。空になった味噌汁の器をテーブルに置いて、

「ボクの恋敵は、好きな人に想いを伝えずに逝ったんだ。こんなに悲しいことはあるか」

 少し怒気のこもっているその言葉を吐いた後、コップの水を一気に飲み干した。

「それ以上の話をするか?」

「遠慮しておく」

 栄恵が令奈を「許していない」ことはわかったし、僕もそれ以上考えたくなかったので、その話はやめることにした。僕はふやけたうどんを啜って、栄恵に苦笑いを浮かべた。

「九州の方のうどんは柔らかいと聞いたことがある。一度ご相伴に預かってみたいものだ」

「うどんはコシがあるのが普通だと思ってた」

「敢えて汁を吸わして食べるから、汁を途中で足すらしい」

 栄恵がスマホの画面に表示させたのは、福岡にあるチェーンうどん屋さんの紹介記事だった。

「しかもネギ盛り放題だ」

「千佳子先生が喜びそうだなあ」

 ネギ好きと言えば千佳子先生。前に連れて行ってもらったお好み焼き屋さんでもネギだくだくだった気がする。九州に行く機会があったら試してみたいなあ、という話をしながら、伸びたうどんをとうとう食べ切った。

「あ、未広さん。ちょうどうどんを食べ終わりましたか」

 うどんのつゆをちょうど飲み干したところで顔を見せたのは牧穂さんだった。

「牧穂、昼食にいない思っていたらどこ行ってたんだ」

「取材です、取材。今週号のネタ集めです」

 僕を護りに来た牧穂さんは、新聞部で新聞記者をやっている。ネタ集めも積極的で、編集会議でもズバッと案を出してくるから美菜ちゃんも驚きだ。

「生徒会長にも取材したく」

「ボクに?」

「美味しいスイーツのお店を教えてください!」

「任せておけ」

 意気揚々とおススメのお店を語る栄恵に思わず笑みがこぼれた。長くなりそうなので、牧穂さんの分も含めてコーヒーでも買ってくることにした。自販機まで歩く間、僕は昨日の牧穂さんの語りを思い出していた。

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