冬の話~プロローグ
「ごめんなさい――」
彼女は懺悔した。
目の前に仰向けに横たわっている少女は、まるで死んだように眠っている。
早く目を覚ましてくれればいいのに。自分が眠らせたのにもかかわらず、彼女はそんなことを思っていた。
どうしてこの子じゃなきゃならなかったの。
――昨日まで、私の名前を呼んで微笑んでいたはずのこの子に。この子の名前を呼んで笑っていた私が。
どうして他の人じゃいけないの。
どれだけ問いかけても、答えてくれる人はいない。
彼女の本能が感情を凌駕するまでのタイムリミットは迫っていた。このまま、感情が上回ってくれればどれだけいいことか。そう願えども、叶わないことはわかっていた。結末は変わらないことはわかっていた。
今日のこの瞬間を迎えないために、彼女は抗ってきた。自分にできる精一杯の抵抗をしてきた。けれど、報われなかった。
絶望する暇は与えられなかった。彼女にできることは、ただ懺悔することだけだった。その暇さえ、もう残されていない。
――どうして私は。
フッと意識が途切れる感覚がした。もう、問いかけることすら許されないのか。絶望よりも深い諦めの境地に達して、彼女は目を閉じた。
――どうして私は、吸血鬼になってしまったんだろうか。
本能が感情を上回った瞬間、彼女は少女に襲いかかった。
少女の首筋に牙を食い込ませると、赤い糸のように血が流れていく。同時に、彼女の瞳から涙が頬を伝っていった。薄れゆく感情の最期に、彼女はもう一度懺悔した。
「あなたを吸血鬼にしてしまって、ごめんなさい――」