悪役令嬢に転生したのにライバルは従者♂!?
好きな相手を呼び出し、後は告白するだけ。緊張で心臓がドキドキしながら待ち合わせの場所へ行くと、先客が何故か2人いた。一人は好きな相手なのだが……。
その2人は熱っぽい表情で見つめあっている。
「アルク様って女性に人気ですよね……私のような者と話していていいんですか?」
「そんなこと言わないで欲しいな、ツェリ。僕は君と話したいんだ。」
「アルク様……」
「ツェリ……」
私は目の前で繰り広げられる光景に呆然とした。
先客のうち、きらびやかな王子風のイケメンであるアルクは私が告白しようと思った彼で、もう一人の天使のような美少女ツェリ…………いや、正確に言うと天使のような美少女ではなく、女装をした天使のような美少年__私の従者のセシルだ。
今すぐにも二人はキスをしそうに顔を近づけている。それに怒りがふつふつと沸いて二人に近づいて引き剥がす。何で邪魔をするんですか?と言いたげに不敵に笑う従者の顔を見て、怒りが頂点に達した。
「セシル、あんた男でしょ!?いい加減にしてちょうだい!!」
自分の部屋へと付いた瞬間に着替えずにベッドへとダイブし、お馴染みとなっている枕に顔を埋め叫ぶ。
「もぉおおおー!またあんたのせいでフラレちゃったじゃない!!」
結局怒りに任せて従者を怒鳴り付けていたのをアルクに全て見られていた。彼は私が怖くなったのだろう……。君との関係は何もなかったと言いたげに彼はそそくさと逃げて行った。悲しくて、悔しくて、暴言を吐きまくっていると透き通った声……だが、此方を小馬鹿にしたような声が響く。
「また僕のせいにするんですかお嬢様。」
悔しいと思いながら声がする方を睨み付けると、ツーンと澄ました顔をして化粧台の前に座っている従者がいた。何澄ました顔してんだ。もとあと言えばお前が悪いんだろう。
「どう考えてもあんたのせいでしょ!!って何私のお気に入りのリップ使ってんのよ!?」
「いやぁ、もっと綺麗になるために練習を」
慣れた手つきで綺麗に唇を塗っていく従者。男なのに何故化粧をするのか……いや、それよりも言いたい。
「従者のあんたが綺麗になってどうすんのよ!主人の私を綺麗にしなさいよ!?」
「お嬢様はもうすでに美しく完璧な女性で在られるので」
どんどん化粧をしていく従者はみるみるうちに綺麗な女性になっていく。そんな奴がそれを言うか。
「それって褒めてるの?貶してるの?」
「純粋に褒めているんですけど」
「私の気になった人たちをことごとく落としていくあんたがそれを言う!?」
そう、何故か従者は片っ端から私が好きになった人を落としていくのだ。私はその度に枕に顔を埋めては泣く泣く従者を罵倒……と言えるのか分からないがしている。
従者を睨み付けていると、彼は美しい顔を此方に向け、にっこりと微笑んだ。
「それは、僕の内面を見ない彼らが悪いんでしょう?」
うわー男心を弄ぶ小悪魔だ。但し男の。そう思ったものの、従者の言葉をよくよく考えてみると疑問に思ったことがあった。
「ちょっと待って、それって遠回しに私の見る目がなかったって言ってない?」
私の答えに対して従者は微笑んだまま何も言わなかった。
「そこは肯定でもいいから何か言って!!無言の方がダメージが大きい!!」
もう、泣いてやる!と言わんばかりに叫ぶも彼は余裕からか、はたまた美貌を磨くためか、微笑みながら化粧を続けていた。
私の従者は男なのに完璧美少女になって私が気になった相手を次々と落としていく厄介なライバルなのだ。
セシルが女装を始めたのはいつだったのか、あまり覚えていない。
初めてあったのは5歳くらいだろうか、その時はちゃんと男の子の格好をしていたはずだが、気付いたら女装していたのだ。
そもそもこのゲームにはセシルは出てきていなかった。ヒロインと攻略対象、悪役令嬢である私であとはモブだけだ。悪役令嬢として転生した私は役通り振る舞おうとヒロインの邪魔をしようと思っていた。何よりもゲームにも関係があるのか、私は攻略対象達に惚れやすかった。
因みにアルクは攻略対象の一人だ。私が前世の知識で彼を攻略し、あとは告白だけであったのにセシルに邪魔され、今や好感度もだだ下がりだ。修復にも時間がかかるだろう。アルクのように他の攻略対象であった5人にもセシルに邪魔され終わっている。
わたしの前世の知識を上回るセシルの攻略の巧みさにもうチートかバグだろ、と悪態をつくしかないのだ。
あと肝心のヒロインなんだが……何故か攻略対象には見向きもせず、セシルの追っかけをしている。このことからもバグってるとしか言い様がないだろう。更に、セシルのことを私に聞きに来るのだ。最初は攻略対象を狙わないのかと嬉々として情報を与えていたのが悪かったのだろうか、いつの間にやらライバルではなく悪役令嬢である私とヒロインが友人のような関係になってるのだ。
本当に何から何まで可笑しい。
考えても分からず、散々叫んだこともあって疲れが溜まっていた。枕に顔を埋めたまま寝てしまうのだった。
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「お嬢様……フローラお嬢様!!…………少しは警戒してくださいよ。」
可愛らしい少女から美しい女性へと移り変わっていく時期であるフローラお嬢様。そんな彼女は自覚がないのか、従者でしかも男である僕の前で無防備に寝ている。
何処で間違ってしまったのかと溜め息をはくが、鏡に顔を戻してどこからどうみても美少女にみえるこの顔が原因かと脱力する。
まだお嬢様と出会って間もない頃だ。人形遊びの延長で僕にドレスを着せかえて遊んではお嬢様は喜んでいた。
また、女装したままだとお嬢様のショッピングにも男の身でありながら、一緒に着いて行けたこともあっただろう。お嬢様の喜ぶ顔見たさと、お嬢様と一緒に居たいという気持ちがあって、従者としての勉強の他に女装についての勉強もしたのだ。
従者として妥協してはいけないと我ながら凝りすぎてしまったのだ。それに相まって中性的な容姿と声の所為もあるのだろうか?学園では、お嬢様と僕のファンというマーガレットさん以外には女装した僕が男だと気付いた人は居なかった。
まぁ、お嬢様の好きな人への告白の邪魔をわざとして、お嬢様からバラされることは何度もあったが、その後も何故か僕はお嬢様が好きだった男から言い寄られている。僕はいたってお嬢様だけが好きなノーマルなのだが……。振り向いて欲しい人に振り向いてもらえない辛さ。しかも、従者という立場であり一体どうすればいいのかわからない。
思春期ということもあり、お嬢様への気持ちが収まらないときは、ささやかな抵抗と言えるのか分からないが、お嬢様の物を借りたり使ったりして気持ちを静めている。もう、変態でも何でもいい。お嬢様意識して欲しい……のだが、その行為をそんなに嫌がらないお嬢様もどうなのか。
先ほどだって口紅を使った時は流石にお嬢様は怒ったが、恐らく起きたらケロッとして、新しいものを使わずにそのまま僕が使った口紅を使うだろう。
そのことから考えても僕は異性と見られておらず、家族とかそんな枠だろうことが分かる。
もういっそのこと女装を止めれば意識してもらえるのか。いやしかし女装を止めればお嬢様の部屋に入れなくなり、他の女性の従者がお嬢様につくことになるだろう。お嬢様との時間が減るのは嫌であった。
では、自身の身体が成長するまで……と思うが、いつ成長するのか、このままなのか分からない。再度溜め息を吐いていると、お嬢様の居るベッドから寝言が聞こえた。
「あるくさまぁ……うふふ。」
横向きに寝返りを打って夢では告白が成功した夢を見ているのか。だらしなく笑っているお嬢様を見て、他の男じゃなくて僕の名前を呼んで僕だけを見て下さいと思うのだった。