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ドワーフ街のバーテンさん。  作者: ほうとう。
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「よぉ小娘。梅酒くれ」

「いらっしゃいませじじぃ様。かしこまりました、ロックで?」

「うむ」

とまぁ偉そうに入ってきたのは偉い人だ。

そう、偉いんだよ。偉いけどうちにとっては口の悪い客のひとりにすぎない。

ぴっかぴかのタンブラーに氷を落とし、甘酸っぱい香りいっぱいの5年もの梅酒をとろりと落とす。

「おまたせしました。梅酒ロックです」

「すまんの」

いえいえ仕事ですから。別に忙しいのに優先的に準備したわけでもなし。

本来ならオツキの5人や10人入ってきそうなものだけれどもうちの店のキャパを考えれば邪魔にしかならない。1回でそれを把握していただけたのは本当に幸いだ。


さて本日のお通しはアジの南蛮漬け。本来は小アジでつくって骨ごとバリムシャするのがおいしいんだけどそっちは現在魚醤として仕込み中。前作ったのは今まさにこの南蛮漬けでおしまい。本来はもっと早くに仕込みたかったのだが肝心の小魚がね……

本当はまさに杜氏がつくっちゃいけないものの一つなんだけど(菌類の相性で)誰がつくってくれるわけじゃないし、まぁたぶんなんとかなるなると信じてる。信じてるよ神様。

というわけでタマネギ、人参、ショウガ、ネギ、タカノツメ、紫蘇の実、魚醤、梅酢(穀物酢はないしワインビネガーも仕込んでないので)でつくった液にラードで揚げた一口サイズにカット青魚を漬けたものがこちらになります。さめちゃってるけどその分ジューシー。ごはんがほしくなるね。でもさすがに品種改良は無理だ。そもそも一種しかないんだから、やろうとしたら遺伝子組み替えかいい種をより分けて何年もかけなければならないのどちらかしか手段がない。

このファンタジーで前者をする場合はまぁ雷ブチ当てるのがその代わりになるかな?すっごい賭けすぎる。

そういえば雷って実際に植物の成長を促進するんだそうだ。原理までは覚えてないが。

んでもう成長とかその辺は気にしなくてもいいじじぃ様は刺さっているピンを持ち上げ野菜を落とさないように器用に口へと魚を運ぶ。

彼本来の食事環境でいえばありえないだろう。一応骨はとってあるけどね。目黒のサンマみたいに油がすっかりと抜けてしまった蒸しものとは比べものにならないんじゃないかな。そもそもで毒味なしがおかしいか。

「最初から冷めておってもこれなら美味いの」

「そりゃよかった」

梅の酸味と相性がよかったのかけっこうハイペースでグラスを干すじじぃ様。

うむうむとか嬉しそうなのがなによりです。まぁなんだかんだで職人だからね。自分の仕事が喜ばれるのは嬉しいのです。

「こういう冷製料理ってあんまなさそーですよね。冷めるのに」

「そーじゃなぁ。脂の浮いた肉なぞ拷問じゃ」

「うへぇ」

冷めたステーキとか確かに拷問だろう。食材がいいならなおのことだ。

ローストビーフとかアイスパインみたいな調理法はないだろうしなぁ。

「というわけで小娘、なにか温かいつまみと、梅酒じゃ」

「かしこまりました」

まぁわざわざそういうものを紹介しても仕方ないだろう。じじぃ様はあったかいのをご所望だ。

あったかいもん、あったか。うーん、あぁそうだ。

「パスタ、いきましょう」

「パスタ?」

「毒味なんぞで時間が経ったら絶対食いたくなくなる一品ですね」

とりあえず生パスタ、仕込んどいてよかった。そしてグッバイマイ晩ご飯。



生パスタは茹でる時間短いのでお湯を沸かしながらすぐにソースを先に準備することに。

オリーブオイルがあればじじぃ様の好みに合わせて粉チーズと胡椒、レモンオイルのシンプルな感じで食べてほしかったところなんだけどバターを使ってクリームにすることにしよう。バターでベーコン、タマネギを炒めて小麦粉を少し、牛乳でのばしてとろみをつけてる間にパスタを茹でる。氷室で冷やして置いた茹でほうれん草をざく切りにして頃合いを見てソースの中にだばぁ―ーショウ酸大丈夫、だよね?1kgとか食べるわけじゃなし。茹でてあるし。うん。

パスタを頃合い見て釜揚げ、ソースの中にダンク。

さっと混ぜてお皿に。

「あったかいものどうぞ」

粉チーズと胡椒で飾り、タバスコはないのでこれだけで。

そういえばフォークの文化は肉を刺すための二又な作りだったがスパゲッティの流行とともに三又になったのだそうだ。安全対策もあったとかいう話だがこのあたりのフォークは私が子供ん時に三叉を作ってもらって結構流通してる。箸はダメだった。私と兄様しかいまのところ完璧に使えてないし、習得する利便さを伝えきれなかった。ギリィ。

「不思議なものだの」

「フォークで巻き付けて食べて下さい。ベースは淡泊なのでバリエーションはいくらでもありますよ」

「じゃがわしがおいしく食べられるのはここだけか」

「ここだけっすねー」

ほれさっさとお食べくださいな。

そろりとフォークを手に取り、掬ってみようとするがつるつる滑っていくパスタを前に途方に暮れるじじぃ様。だから巻き付けてっていったじゃん、と私はカウンター越しにフォークを借りくるくると巻いてあーん、と誘う。

「なんじゃ子供みたいな扱いじゃの」

「初めては誰だって勝手がわからなくて当然ですよ」

いい年して口を尖らせ、覚えたわいとかいわれてフォークをぶんどられる。むむぅ。

すする、なんてできないからそのままぱくり。口の中でほどける柔らかなミルクとチーズの風味はどうでしょう?

「ほほぅ」

「どうです」

「温かいのぅ」

もっくもく。食べながらしゃべっちゃダメだろ。

「見ての通り、直前まで加熱してましたからねぇ」

「チーズってこう、ねっとりしとるんじゃのぉ」

「涙誘う話をされた」

まぁ加熱しないで食べる方が一般的だっけか。

でもなぁ、時間経つからカピカピしてそう。

「このもちもちもよいな。これがパスタかの?」

「そーですね。卵と塩と小麦粉で作った麺の一種です。形はなんでもいいですけど乾燥させれば日持ちするし腹に溜まるから保存食としてスープに入れても仕事してくれる、かな?」

魔法使えば黴びずにできそうだ。

そういえばニョッキの荷物持ち君元気かな?

たまに顔を出してくれるのだ。今はちょっと遠征中らしいけど。

「麺、のぅ。これはおまえさんトコの家には禁止されておらん、よのぉ?」

「ないですねぇ」

うちの実家が介入しているのは酒だけだ。

料理のレシピが金になるなんてのはこの前初めて知ったのもあるし、商品になってくれればむしろこちらは楽だし。ただなにが商品になるかがわかんないだけで。

「今年のコムギが豊作での、去年の分の備蓄をどうにかしたかったんじゃ」

「なるほど」

卵はこの帝都にあっても価格の優等生さんだ。悪い考えではないだろう。

食料が無駄になるのも心苦しいし。

「いいんじゃないですか」

ほっ、と目に見えて安心したため息が聞こえる。

「自分は食べられないのになぁ」

スープに入ったぶよんぶよよんなパスタ、あれは上級者向けだと思う訳よ。

それにしても。

「もう引退したのになに律儀に仕事しようとしてるんスか上帝閣下」

「だってコムギが」

大麦だったらビールは無理でも麦茶くらいは提案してあげられたんですけどねぇ。

まぁコムギなら白ビールって手も、おっと。兄様に怒られるな。

とりあえずレシピを書き連ねているとお客さいや、客じゃないか。

うちの店が窮屈そうな上質な光沢を纏う黒い鎧のおっさんがおひとり。確かオモヒカネだかなんだよなぁアレ。厳つい顔に実に似合っている。まぁ今は申し訳なさみたいなものを抱いてるのもあるんだろうけどね。

「すまん、メイ殿。うちの大将を担ぎにきた」

「まだ酔ってないですからちゃんと御自力で歩けると思いますよ?」

「そんなことしたらまた逃亡するだろう」

うわぁ苦労が伺えるな。

「グルナークも呑むか?」

「遠慮し」

「ここは酒を飲む店だ。用がないなら帰れかえれ」

じじぃ様は酔ってない。そのくせ酔っぱらいみたいなことをいってにししと笑う。うちはまぁ店としてなんの問題もないし、一応目的もあるから余計なことをいう気はないのだけど、うーん。

「じじぃ様もそういってますし、まぁ一杯。水分は適度に取らないと体をいざというときに動かせませんよグルナーク様」

「しか、いや。呑むといえばここで大将を監視できるわけか」

かったいけどまぁそういうことです。じじぃ様の分の梅酒も追加しましょうねー。

「というわけでグルナーク様、麦水です」

「麦水?」

「エールの酒精抜き、かな」

たいそうなことをいうが単なる麦茶である。

人口が多いのが原因で魔法で飲み水をどうにか確保していた時代のあるこの国、飲み水の確保は非常に神経質で結果酒が一番手っ取り早い水分として浸透しており、この目の前のじじぃ様が上下水道を整備した後も文化的な形での飲酒が残っている。果実の絞りジュースはどうしたって日持ちしないからね。勿論アルコールがダメなひともいるがその場合は加熱してとばすくらいだ。水のめよって話だがそもそもで水ってそのままのんでいいの?という思考が根強い。まぁNO生水は同意するけど。寄生虫怖い。

「酒じゃないもんも出すのか酒場なのに」

「飲み物全般、酒場とは縁がありますよ。失礼」

せっかくなのですでに半分ほど減っている梅酒の上に炭酸水を乗せる。

しゅわぁという音にじじぃ様は目を丸くした。

「水魔法か」

「の、魔改造ですかね」

鎧おっさんの声ににんまりと笑う。氷出すとこしかそういえば今までみせてなかった。

「うぉ、しゅわっとする」

「そこの部分もノンアルえっと酒じゃない奴ですよ。おもしろいでしょう」

「うむ。そして梅酒に合う」

あ、こら一気呑みすな。炭酸入ってる方が正直回るよ?ってそんなこと知らないか。

「大将。そちらの皿は?」

「小娘が作ってくれた」

自慢げにいうじじぃ様はなんていうか孫娘を自慢してるようにしかみえない。小娘とかいってるけどもう訂正しようがないしなぁ。

「メイ殿」

「グルナーク様にも召し上がっていただきますね。今し方交渉してたのもあるんで」

交渉?と首を傾げるのも無理はないだろう。

とりあえず南蛮漬けも出して、手っ取り早くパスタをつく、って!なかった!ミルクがなかった!だから自分の分あきらめたんだった!

えーっとなんかなにか、なに。あった。保存用のトマトピューレ。っしゃぁ。こっちでイクぞ。

「小娘、わしが食べたのと違う色しとるんじゃが」

「ミルクなかったんですよ」

「これはどうやって食べればいいのだ?」

「フォークでこう、くるくるくるー、じゃ」

「く、くるくる?」

すでに食べ終わっていたじじぃ様のアバウトな説明に目を白黒させる鎧おっさん。

とりあえず再現。あーんさせてもらえないところまで一緒だ。しかし鎧だと食いにくかなかろうか。

さて。食べ始めた様子からすると気に入ってくれたみたいなんだけど、条件ちゃんと詰めないとね。例えばスラム街の人雇った形で工場とか作れないかなぁ?ねぇ上帝様。


偉い人もくるよ。

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