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ドワーフ街のバーテンさん。  作者: ほうとう。
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その日が初めてのお客さんは珍しく冒険者だった。

立地的になかなかないことである。

多分人族。メットこそ被ってないけど少しくたびれた軽甲冑纏って剣を携えて、んでおどおどしてる。最近こんな客多いぞおい。

「あの、えっと」と出した声は割と若い。この店がどんな店かはかりかねたのは明白だった。まぁ入り口にBARって書いてあるけどそもそもBARってなんだよっていうね。知ってる。だって多分世界初だもの。

「いらっしゃいませ」

「あの、さちばーって、なんのお店ですか」

「お酒のお店です」

まぁ無理もない質問なのでそうと応える。逆にそうとしか応えられない。

「お酒、じゃぁご飯も」

うん、この世界においては基本酒はメシとセットだ。うちも全く出さないわけじゃない。

「どうぞ。ご予算に併せていろいろ御用意できますよ」

そう促すと彼はどこかほっとした顔で店の中に踏み込んでくれた。



さて。確認をとってからビールとお通しを出し、ごはんである。

好き嫌いを聞けば冷たいラガーの味に目を輝かせ、お通しのきのこ春巻きにギョギョっていた彼はえっとえっと大丈夫ですと教えてくれた。まぁ腹に溜まるものがいいだろう。

若者、はらぺこ、といえばどんぶりもの万歳であるが米は生憎酒米しかない。初心者には向かないだろう。そもそも酒米だってみつけるのが大変だった。すごく大変だった。日本酒はこれから仕込みます。まず麹作りからなんだけどね。

それはともかく、ごはんというわけにはいかないなら……あー、ニョッキにするか。腹に溜まる、やすい材料、バリエーション自在。


ニョッキはイタリアにおけるパスタの一種だ。パスタは麺類の総称と説明される場合もあるが元々は「練り物」全般を示していたという。平たくいえば歯磨き粉もちくわもパスタである。それはともかくとしてイタリアの法律ではでゅもら、なんちゃら?小麦粉を使ったもののみパスタと呼ぶようにした、そこまではOK?とはいえここは異世界。そんなパスタの為だけに開発された三倍体小麦があるはずもなく、ゆでたジャガイモ潰して小麦粉と卵と塩入れてねるねるねるねして一回お休み。今の内にソースだけどどうしようかな。トマト、ニンニク、タマネギ、ベーコン、キノコ、チーズでいいか。ぬぅスパゲッティ食べたくなるなぁ……生パスタならイケるか。確か一番簡単なレシピが粉と卵だけだった筈だ。分量は覚えてないけどたぶんなんとかなるなる。

は、パスタつくれるならゆでるときに重曹入れれば中華麺ぽくなるってどっかでみたな。アレ試そう。ありがとう若き冒険者、君のおかげで私の食生活が広がる!

とりあえず具をザクザク切ってフライパンに入れてラードとタカノツメで炒める。一般的な油脂は大体肉屋で作られていて、ラードや鳥皮で作ったチーユがメインだ。バターもあるけどやっぱ割高。畜産が発達していないのだ。オリーブを始め植物性油もあるけどあんまり食用で出回らないのは単純にこの辺が産地じゃないからだ。運搬技術低いからね、仕方ないね。

おっと、ニョッキ用にもお湯茹でなきゃ。ソースはブイヨンでのばして塩で味付け。胡椒もあるけど例によって贅沢品なので我慢。

ニョッキの方はのばして切ってベコませて茹でて浮いてきたところを煮詰まってきたソースにぽいぽい。ゴーダっぽいハードチーズを削り入れてお皿へ。わぉ色だけなら毒々しい。さすがイタリアにて輸入当初は観賞用とされていたトマト。本当に毒だと思われてたんだよね。あ、トラップみたいなタカノツメはすでに除去しました。

「はいおまちです」

「これは?」

「ニョッキ、芋団子のトマトソースですね」

あ、バジルも散らせばよかったな。彩りが地味だ。

「いも」

少しげんなりしたご様子。まぁ例に漏れず芋は最下層民の主食扱いされてるのである。向こうだと割と三大主食の内に燦然と輝いているんだけど、たぶんまぁ調理法だなぁ。

ちょいちょいとスプーンで芋にはみえない芋をつつく冒険者君。にんにくの香りにつられたのか芋の形が違うからなのかそろりそろりとソースの中に進入し、ひとかけらをすくい上げ、口の中へ。おっと、お客さんの食べる様などじっくり観察しては失礼か。

みるとビールはすっかりなくなっている様子。おかわりいりますか?と聞いたが反応がない。うみゅ?

ーーみれば皿が空になっていた。空はいいんだけど、ソースを舐めようとするのはちょっとなぁ

「パン出すね!」

「あ、はい!おねがいしますっ」

あーびっくりした。

あわててラスク用に買っておいたバケットを数枚カットして差し出す。べっちょりという言葉ぴったりにソースをつけて彼はそれも食べ干した。

「気に入ってくれました?」

「もちもちでした」

うん、そうだろうね。

「だっていもですよね?」

「いもですよ」

「なのにもちもちなんです」

「あー、うん。もちもちです」

「ソースもおいしかったです。ニンニクとトマトがこんなに合うなんて知らなかった」

そうかイタリアンは珍しいのかぁ。そういやパスタないんだもんな。ちなみにイタリアと一口にいっても大体大まかに分けて北部・南部・シチリアでスタイルが違ったりする。北南はミラノとナポリっていうと何となく察してもらえるだろうか。

なんにせよ食べ慣れないだろうに楽しんでくれてありがたいな。

「最後の晩餐として非常に幸運でした」

「不穏!」

にこにこしながら告げられる言葉がホラーすぎてちょっと泣きが入る。

最後の晩餐てなに、私聞いてない。


「へー、スレイプニール」

北欧神話の6本足の馬だっけ?8本だっけ?確かヘタレ主神として有名なオーディーンの乗り物だった筈なのにこちらでは害獣かぁ。世知がらいな。

「その、そこまでの大物は初めてで」

「ふむ」

この冒険者君、くたびれるくらいの鎧を着ているがどうもまだまだ初心者な上に希望あってのことではないらしい。それなりに大きなパーティーに所属しているのだが現状は荷物持ちなのだという。いわゆるマジックボックス持ちだからとスカウトされたらしい元芋農家三男君。そりゃ芋も嫌いになるわ。かつての知り合いにみかん農家故に柑橘系の香水にすら嫌悪感を抱くという人もいたし。いやそこじゃない。

立派な冒険者はほかの面々だけで、一応立派なりにいろいろ配慮はしてくれてるようなのだが彼自身ノる気じゃなかったもんだから現場が怖くて仕方がない。でかいモンスター相手に突進していく仲間と呼ばなければならない人たちも捉え方によってはみる限り狂人と変わらないだろう。

それでもほかのメンバーの予備の武器だの薬草だのを預かっている手前、前線かそれに近いところにいないと意味がないとなれば戦う術など畑に湧いたモグラ相手くらいしか経験のない彼にはハードルが高い。スレイプニールのレベルまでは知らんけど。越えるよりくぐった方が楽なくらいだろう。ちなみにミミズは益虫なので丁寧にもてなすそうだ。どうやって。あいつら土食ってるんだろうに。

「ノリも、そのちょっと熱血というかあつっくるしいというか濃いっていうかとにかくちょっと酔いそうで。テンション上がってるんでしょうけど居心地悪いしノレないし、でちょっと抜けてきちゃったんですよね」

くたびれてはいるが使い込まれた鎧に一見不備は見られない。おそらく仲間としてやるべきことはやってくれているのだろう。ただちょっと本人が嬉しいかっていったら別の話なだけで。しかも温度差。なるほどしんどい。

「リーダーさんはちゃんと護るといってくださったんですけどそれはそれで申し訳ないし」

あの人に自分の代わりで死んでほしいわけじゃないんです。

ぽそりと続いた言葉が本心だろう。それに一瞬庇われたとてなんの救いにもならない。

さっき彼は最後の晩餐などと言い放った。

庇われたら庇い返すくらいの覚悟はありそうだ。

ふむ。こんな時バーテンダーというのはなにをしたらいいんだろう?

止まり木の名を持つ職として正しいこと。勿論酒出して話聞くことしか出来ないんだけどさ。そもそも私は本職さんにお会いしたことは一度もない――だから自分の考えで行動するしかない。

「景気付けというのもアレですけど、一杯のんでいきません?」

「え、エールですか?ここの冷えててすごくおいしかったです」

「ありがとうございます。ちょっと、変わったものなんですけどね」

そういって私は足下の氷室から一つ、黄色い果実をとりだした。



「ホースネックです」

ホースネックはカクテルというよりはいわゆるそのスタイルに由来する。

螺旋状に剥いたレモンの皮入りジンジャーエール割が基本であり、この場合酒はなんでもいい。ジンジャーエール用のジンジャーシロップは自家製でっせ。

とはいえさすがに明日討伐だっていうのに酔っぱらわせるわけにはいかないので入れた酒は蜂蜜酒、それもフレイバー程度だ。

「あのマスター、これは」

マスターって呼ばれるのちょっと調子に乗るな。よきかな。

「呑んじゃえば気も楽になるかと」

「えぇ」

困ったような顔。まぁ今からトンカツ揚げる方が問題だし。もたれそう。いや若いからいけるか?あ、アイテムボックス持ちならカツサンドとか持ってかせるかな。

「ほらほらー」

「い、いただきます」

完全に流されるというか押されるようにして一口。

エールやビールよりも強い炭酸、レモンの苦みと酸味、すっきりとした後味。

それらをのどに受けてふぁっ、と声を上げた彼がこの一杯を楽しんでくれたことを察する。うんうん、この顔もっとみたいな。

「ついでに明日のお弁当も用意して上げよう。初来店、新人冒険者さんへの応援だ」

「いえ、そんなにしてもらわなくて、も」

「食べたいと思うもんがあれば、意地でも生き残れるんじゃないかと思ってさ」

そんな風にいったら、ちょっと困ったような顔でありがとうございますと彼は笑った。

「それに生き残ってくれなきゃせっかくできそうな常連さんがいなくなっちゃうからね」

わらってそういうと、がんばってまたあのトマトソース食べにきますと彼はいってくれた。トマトそろそろ季節終わるんだけど――保存用にピューレつくっとこーかな。



食べ物に流れるのはうちの界隈ではよくあること(遠い目

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